地域住民を支える路線バスにみる地方交通の行方/地域活性機構リレーコラム
亀和田 俊明
2019/09/18 (水) - 08:00

8月に取り上げた「地方百貨店」や過半数が赤字という「地方銀行」などと並んで地方圏にとって厳しい経営環境にあるのが、「地方の公共交通」、それも地域のバス事業者です。少子高齢化、人口減少によって起きる地域住民にとっての切実な問題といえば、鉄道やバスといった公共交通機関の縮小です。今回は「路線バス」の現状や新しい交通サービスから地域の活性化について考えてみたいと思います。

全国のバス事業者の約7割、大都市以外で約9割が赤字

蛭子能収さんと太川陽介さんで一躍メジャーになった「ローカル路線バスの旅」は、今や他局でも亜流の番組が乱造されるほどの人気コンテンツですが、バラエティであって、交通インフラやローカル駅、商店街、行政施設や病院、学校といった登場するさまざまな地域のスポットにより地方の最新情報を垣間見ることができるため、地域活性化の観点からも参考になるテレビ番組です。

地方の路線バスは人口減少などにより乗降客も限られています(長崎県諫早市)

国土交通省によれば、全国の乗合バス事業者の約7割、大都市部以外では約9割の事業者が赤字といいます。燃料費と人件費の上昇が経営を圧迫しており、地域のバス事業者にとって厳しい経営環境は全国的に大きな問題となっています。今後、地方を中心にさらに厳しい状況が予想されますが、利用者数の減少や路線の廃止、運行本数の減少といったサービス水準の低下は、各地で急激に進み始めています。

(資料:国土交通省資料を基に筆者作成)※単位は100万人

上記の国土交通省の統計によれば、輸送人員は乗合バスの場合、1968年をピークに1992年の約64億人から2017年には約43億人へと、実に33%も減少しました。乗降客が減ればおのずと経営にも悪影響を及ぼしますが、利用者の確保は地方のバス事業者には共通した課題です。公共交通機関の縮小傾向は、過疎化が進む地方においては自家用車が必要不可欠となり、さらにまちの疲弊や衰退に拍車をかける状況になっています。

一般路線バスは、2010年度から2015年度までの6年間に約7,509kmの路線が完全に廃止されました。全国の路線バスの合計は53万7,604kmですが、毎年約千kmのペースでバス路線が消えているともいいます。赤字が常態化しているために減便・路線廃止するというのみならず、地方では人手不足により運転手が確保できずに減便、路線廃止をせざるを得ないという状況まで見られ始めています。

こうした実態を踏まえ、6月の政府の「成長戦略」では、苦しい経営を強いられている乗合バスの経営統合促進と特例法の制定を掲げられました。乗合バスを対象に独占禁止法の除外を認める特例法を2020年の通常国会に提出し、10年間の時限措置を導入し、期間内に集中的に再編を後押しするといいます。インフラ機能維持のためには経営力強化が喫緊の課題であり、その選択肢として経営統合や共同経営の実施が見込まれています。

人口減少や自家用車依存度が高いことから利用者減少

都市部に比べて地方では鉄道もバスも路線や本数が少なく、自動車に依存しているのが現状ですが、高齢者による自動車事故が増えると共に、運転免許証の自主返納を勧める動きが進む一方で、自動車に代わる「生活の足」を確保することができないのが実情です。これらの地域には後述のようにさまざまな原因がありますが、地方のバス路線廃止は、少子高齢化による利用者の減少が主要因とみられます。

(資料:筆者作成)

これから高齢者が増え、自家用車を運転できない人が増えてきます。「国土交通省国民意識調査」(2018年度国土交通白書)によれば、将来的な不安として、「公共交通機関が減り、自動車が運転できないと生活できない」が最多であり、特に地方部ではその傾向が顕著でした。路線バスを利用する際、地方の高齢者は、病院または役所に行く際か、買い物に行く際に利用する例がほとんどです。「買い者弱者」は高齢化と共に増加傾向にあり、全国で約700万人と見られます。

こうした厳しい状況を受け、本格的な人口減少社会における地域社会の活力の維持と向上を図るため、2014年に「改正地域公共交通活性化再生法」が成立し、地域住民の通勤や通学、通院、買い物など日常生活を営む上での交通圏を踏まえて公共交通ネットワークの再構築が図られるよう、2018年8月までに427件の「地域公共交通網形成計画」が策定され、24件の「地域公共交通再編実施計画」が国土交通大臣により認定されています。

一方、政府は6月の交通安全に関する関係閣僚会議で、自動車に頼らず生活できる環境づくりに向けた緊急対策をまとめました。現在は認められていない「タクシーの定額乗り放題」の導入検討や過疎の自治体などが主体となってマイカーにて有償で住民を運ぶ「相乗りタクシー」の拡大を盛り込んでいます。いつまでも赤字路線を補助金で維持するには限界がありますので、このような新たな仕組み作りが迫られています。

ライドシェアの実証実験も規制や持続可能性に課題

高齢者が自動車に頼らずに暮らせる社会を実現するため、公共交通の利用環境の改善、制度の垣根を越えた連携による地域の輸送サービスの多様化、自動運転技術を取り入れた新しいモビリティの活用など、高齢者の安全運転を支える対策の加速と、高齢者の移動を伴う日常生活を支える取り組みも各地で始まっています。安倍首相も3月の「未来投資会議」において、「ライドシェア」の利用拡大へ道路運送法を改正する方針を表明していました。

■ライドシェア

「ライド=乗る」を「シェア=共有」することで、一般的には「相乗り」や「乗車サービス」を指します。自家用車の所有者と自動車に乗りたい人を結び付ける移動手段です。

さて、自家用車輸送は「白タク」として原則禁止されていますが、公共交通手段のない地域での住民の利用に限り(活用した市町村は約26%)認められています。地方では超高齢化と運転免許証の自主返納率の高まりとともに運転できない高齢者が増加し、移動手段の不足が問題化し始めており、その対策として今、ライドシェアが注目され、兵庫県養父市のように特区制度を活用した地元住民の自家用車を使った有償のライドシェアも始まっています。

京都府の京丹後市では、2016年より地元のNPOがウーバーと組んでライドシェアの実証実験を行っていますが、同地を訪れる欧米系の訪日外国人旅行者もライドシェアに慣れ親しんでいる人が多く、同様の観光地などでも観光客の交通手段として、さらにインバウンド誘致という点でも大きな訴求力につながるとともに、効果をもたらす可能性があるかと思われます。

(資料:各自治体の資料を基に筆者作成)

ライドシェアについては、実証実験から撤退する自治体、地域も見られますが、実施地域においては規制の在り方や持続可能性のバランスをどう取っていくかなど課題も見られます。また、バスや鉄道、タクシーなど交通手段を一括予約・決済する「Mass」などの取り組みも過疎地や観光地で実証実験が行われています。このように、さまざまな新しい取り組みも始まっています。

乗合バスは地域の基盤企業であり、その維持は地域において大きな課題であるものの、少子化、人口減少の中でその経営は急速に悪化していますので、規制の緩和や多様な交通手段を有機的に組み合わせ、身の丈に合った新たな地域公共交通網の形成が望まれます。高齢化社会が進むなか、地方における交通の在り方が今、問われていますし、乗合バスなど地域インフラの再生は喫緊の課題といえます。

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