札仙広福にみる地域経済の中心都市への人口移動
亀和田 俊明
2020/03/09 (月) - 08:00

現在、若者を中心に地方圏から東京・神奈川・千葉・埼玉などの東京圏への転出が増え、2019年の「人口移動報告」によれば、東京圏は14万8783人の転入超過になっており、東京一極集中の流れは続いていますが、地方圏でも政令指定都市や県庁所在地など中心都市に人口が集中する傾向があります。今回は「札仙広福」という代表的な拠点の地方都市を軸に地域の活性化について考えてみたいと思います。

札幌・仙台・福岡・熊本など地方都市は前年増の転入超過

地域間の人口移動状況を知ることができる総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」(2020年1月)によれば、2019年の都道府県別の転入者数では、東京都への転入者数が46万6849人で最も多く、次いで、神奈川県、埼玉県、大阪府、千葉県、愛知県、福岡県が続いて、7都府県で57.4%を占めています。逆に転出者数が多いのは、東京都を筆頭に神奈川県、大阪府、埼玉県、千葉県、愛知県、福岡県、兵庫県が続き、上位の8都府県で55.2%を占めています。

また、2019年の日本国内における「市区町村間移動者数」は540万3465人となり、前年に比べ0.8%の増加。「都道府県間移動者数」は256万8086人となり、前年に比べ1.3%の増加でした。男女、年齢別にみると最も多いのは就学や就職を機に人口移動する20~24際の男性です。「都道府県内移動者数」を追うと283万5379人で前年に比べ0.4%の増加になりました。なお、全国1719市町村のうち、転入超過は450市町村で、全市町村の26.2%でした。

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(資料:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」より)

転入超過数では東京都が8万2982人と最も多く、次いで神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、福岡県、滋賀県、沖縄県の8都府県で転入超過となっており、前年に比べ転入超過数が拡大しているのは6都府県で、最も拡大しているのが神奈川県です。一方で転出超過数は、広島県が8018人と最も多く、実に39道府県で転出超過となっています。前年に比べ転出超過数が拡大しているのは26府県で、こちらも最も拡大しているのが広島県の1961人です。

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(資料:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」より)

地方の政令都市レベルでみると、前年に比べ転入者数が増加しているのは、福岡市(2,343人)と札幌市(1,156人)で、減少しているのが、仙台市(682人)と広島市(10人)。また、転入超過数が拡大しているのは、福岡市(2,053人)と札幌市(1,529人)で、仙台市(630人)は縮小しています。なお、福岡市(2,717人)、札幌市(1,184人)、仙台市(1,137人)はいずれも女性の転入超過数が男性の転入超過数より多くなっていることが分かります。

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(資料:総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」などを基に筆者作成)

経済規模や文化度で福岡・仙台・札幌が上位ランクイン

地方圏から東京圏への転出が多くみられますが、地方圏においても経済の中心都市である政令指定都市や県庁所在地へ人口が集中する傾向があります。今後は人口増加率にかかわらず、当該県に占める人口の割合は上昇するでしょうし、実際に宮城県では沿岸部で人口減少が進むなか、仙台市への人口流入が増加する「仙台一極集中」が鮮明です。「札仙広福」と括られる札幌市、仙台市、広島市、福岡市は特にその傾向が強いものがあります。

人口が集まる各都市の経済規模でみると、事業所数並びに従業員数は下表の通リですが、札幌市は全国に比べ製造業などの二次産業の割合が低く、三次産業が中心です。仙台市も三次産業が約9割を占め、「卸売業・小売業」「宿泊業・飲食サービス業」の割合が大きく、福岡市も三次産業が約9割を占め、「卸売・小売業」「専門・科学技術、業務支援サービス業」の割合が大きいものです。4都市のなかでは広島市が三次産業の割合が最も低く約8割です。

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(資料:「平成28年経済センサス」より筆者作成)※順位は市町村ランキング

さて、2019年9月に発表された森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として人口20万以上の国内の主要72都市(東京23区含む)を対象に総合的にまとめた「日本の都市特性評価」によれば、上位10都市は以下の順位でした。2位の福岡市は経済・ビジネスの分野だけではなく、住みやすい街としても高い評価を得たほか、仙台市は研究・開発、文化・交流面で、札幌市は文化・交流のほか、交通インフラなどから、それぞれ7位、8位でした。

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(資料:森記念財団都市戦略研究所の資料から抜粋して作成)

福岡市、仙台市、札幌市が上位にランクインするなか、広島市は14位でした。「札仙広福」と語られることの多い地方圏では抜きんでた地方都市ですが、都市によって規模や成長度、格差もみられます。150万人を超える札幌市と福岡市の人口増加率は高く、特に福岡市は国際機能も評価されてグローバル都市化が成長をもたらしています。100万人を超える広島市と仙台市では広島都市圏の人口が減少する一方で仙台都市圏の人口は増加し続けています。

新産業の育成・新事業の創出へスタートアップ支援

以前は、大企業などの支店が多く置かれていたことから『支店都市』とも呼ばれた「札仙広福」。都市の成長において市民生活を支える産業の発展は重要な要素の一つといえますが、企業誘致を強化する一方で、地元企業の育成、成長を促進する支援策、また次代へ牽引する産業の発展に必要不可欠なスタートアップ企業の創出・支援を行う取り組みが4都市とも活発化しています。令和2年度においても下表のように、注力する施策が掲げられています。

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(資料:各自治体のHPを基に筆者作成)

4都市で人口増加率が高い福岡市は、新幹線停車駅で、空港からのアクセスが良く、自然が豊かな上に都市機能が凝縮しているコンパクトシティのため、オンもオフも充実させることのできる移住地として高い人気を誇ります。現在、起業する人たちにとっても行政の支援などを手厚く受けられるメリットの多い土地として創業が活発で、ベンチャー企業、スタートアップには最適な環境といわれ、クリエイターやエンジニアなどの職種の移住者が多い街でもあります。

企業の新規開業(起業・創業)は、競争とイノベーションを促して地元に雇用創出や経済成長をもたらし、地域の活性化に貢献します。これからの時代、地方都市においてはイノベーションの担い手であるスタートアップ企業は重要な存在であり、今後、国内の他都市だけではなく、世界で勝てるスタートアップ企業を創出することも必至であるほか、何より人材面では、転出を抑え、移住者を増やすことにもつながるのではないでしょうか。

特に20代前後の若い世代の東京圏への流出を抑えたい地方都市においては、「地方に仕事をつくる」、「新しい人の流れをつくる」、また、顕著な高学歴の若い女性層の流出を抑制する上でも「結婚・出産・子育ての希望を叶える」ために地方創生の目標を達成しなければなりません。引き続き地域経済の中心地でもある地方都市の振興が注目されます。次回も地方都市について触れたいと思います。

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