【地方都市の魅力】栃木県宇都宮市 コンパクトなまちづくり進める「住めば愉快」な交通未来都市
亀和田 俊明
2021/05/19 (水) - 08:00

コロナ禍で地方への関心が高まるなか、政府は地方への移住・定住を強力に推進するなど都会から地方への人の流れをつくりだすことを目的にテレワークを推進する自治体を支援するため、サテラライトオフィス整備等の取り組み138事業(14道府県・124市町村)に40億円を交付することを決めました。地方都市でもテレワーク環境の整備が進められていますが、さまざまな都市の魅力と実態を「移住と暮らし」という視点から紹介する連載コラムは、今回は栃木県「宇都宮市」です。地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。

2023年春に公共交通ネットワークの要のLRTが開業へ

宇都宮市は、人や企業の活動を活性化させる「交通未来都市うつのみや」の実現を目指していますが、現在、日本初の全線新設によるLRT(次世代型路面電車)という新交通システムを要にした「ネットワーク型コンパクトシティ」のまちづくりに取り組んでいます。時間に正確で輸送力が大きく、市民が移動しやすいLRTは、JR宇都宮駅と芳賀町の芳賀・高根沢工業団地を結ぶ約14.6kmの距離に19ヵ所の停留場が設置され、3両編成で運行されますが、2023年春の開業を目指し沿線の整備工事や駅東口の再開発が進められています。

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(出典:宇都宮市)

さて、宇都宮市を抱える栃木県は、2020年のふるさと回帰支援センターの「移住希望地域ランキング」の窓口相談者では13位。宇都宮市は日本経済新聞社と日経BP「日経DUAL」による「共働き子育てしやすい街ランキング2018」では全国1位。その暮らしやすさから「街ランキング」では常連で、東洋経済新報社の「都市データパック」では、人口50万人以上の「住みよさランキング」で2013年~2017年まで5年連続1位、2018年、2019年と4位、2020年は3位でした。

栃木県のほぼ中央に位置する宇都宮市は約52万人が居住する県庁所在地であり、北関東最大の経済圏を有し、さまざまな都市機能が集積している中核都市です。東京から北へ100kmの距離に位置し、JR宇都宮駅には東北新幹線が停車するほか、南北に東北自動車道、東西に北関東自動車道が貫くなど交通アクセスにも恵まれています。北部には丘陵地帯が連なり、北部から東部には鬼怒川、中央には田川が流れるなど豊かで美しい自然にも恵まれた街です。

春は比較的安定した穏やかな日が多いですが、夏は暑く、冬の冷え込みが厳しい地域で、夏場には雷が多発することから「雷都」とも呼ばれています。四季がはっきりしているだけに、季節感を感じられます。台風の被害は少ないです。年間の日照時間の合計値は1911,3時間と日照量も多く、年間の降雨量も1493,1時間と少な目で、基本的に過ごしやすい気候です。1981年から2010年までの平均気温は下表のように13.8度で、2020年は15度と上がってきています。

宇都宮市の平均気温(1981~2010年)

東京都心部まで新幹線で約50分、車では最短2時間のアクセスです。羽田空港や成田空港へは直接リムジンバスが乗り入れています。宇都宮市内ではJR宇都宮線や日光線、東武鉄道宇都宮線などの鉄道路線が運行。市内のバスの便数も多く、中心市街地では170円の運賃で駅や公共施設、商業施設などを結ぶ関東自動車の市内循環バス「きぶな」も。公共交通機関も整っていますが、自動車の保有台数が全国でも上位でマイカー移動する住民も多い街です。

宇都宮駅の1日平均の乗車人員の推移

豊かで幸せに生活できるまち「スーパースマートシティ」実現へ

2021年3月に国土交通省から発表された栃木県の公示地価は、コロナ禍の影響もあり、住宅地でマイナス1.2%、商業地でもマイナス1.1%、いずれも29年連続での下落となり、下落幅も拡大。一方、宇都宮市の住宅地は0.1%でほぼ横ばいも4年連続、商業地も5年連続での上昇。JR宇都宮線沿線の利便性、居住環境の良い住宅地を中心に需要が堅調。商業地はLRT開業を控え、駅前開発事業等の整備が進むJR宇都宮駅東口周辺を中心に地価の上昇が続いています。

2021年の公示地価の変動率

JR宇都宮駅周辺には「宇都宮パセオ」をはじめ「トナリエ宇都宮」と「ヨドバシカメラマルチメディア宇都宮」、東武宇都宮駅周辺には東武宇都宮百貨店やオリオン通り商店街など両駅の周辺に多くの商業施設が集中していますが、マイカーがあれば郊外の宇都宮インターチェンジ近くにある大型商業施設「FKDショッピングモール 宇都宮インターパーク店」もあり、日常の買い物や週末のお出かけは、ほとんど市内で済ますことが可能です。

また、宇都宮市の事業所数は約2万3千、従業員数は約24万人で、栃木県及び北関東いずれも首位です。産業人口は、全国的な傾向と同様に第三次産業が最も多く、事業所数も従業員数も「卸売業・小売業」がトップで、次いで事業所数では「宿泊業・飲食サービス業」、「建設業」と続き、従業員数は、「製造業」「医療・福祉」、「宿泊業・飲食サービス業」の順となっています。

宇都宮市の事業所数・従業員数

宇都宮市は令和3年度予算で、新型コロナウイルス感染症による市民生活や経済活動に与える影響を最小化していくため、必要となる事業については優先的に取り組むことはもとより、「新たな日常」を通じた「質」の高い経済社会の実現に向け、「公民連携」や「デジタルトランスフォーメーション」を推進するとともに、持続可能なまちづくりに不可欠な「スマートシティ」や「SDGs未来都市」等の具現化に向けた施策・事業の優先化・重点化を図るとしています。

令和3年度の主な事業

同市は、「第6次宇都宮市総合計画」に掲げた6つの「未来都市」の具現化を図るための「まちづくりの好循環」につながる施策・事業の着実な推進と、まちづくりの基盤となる「ネットワーク型コンパクトシティ」の形成に資する施策・事業に優先的・重点的に取り組み、あらゆる分野においてAIやICTなどの先進技術をいち早く取り入れ、子どもから高齢者まで誰もが豊かで便利に安心して暮らすことができ、夢や希望をかなえることのできるまち「スーパースマートシティ」の実現を目指すといいます。

「スーパースマートシティ」の実現を目指す予算イメージ
「スーパースマートシティ」の実現を目指す予算イメージ
(出典:宇都宮市)

「共働き子育てしやすい街ランキング2018」で全国1位

宇都宮市は、2011年以降は社会増が続いていましたが、2019年にマイナスに転じたものの、2020年は下表のように再び社会増になっています。同年の移住についての相談件数も年度後半に増え、55件と前年度比で微増(2019年は50件)でしたが、コロナ禍で地方移住に対する機運の高まりが影響していると考えられます。栃木県や宇都宮市への移住を考える際には、栃木県の移住・定住促進サイト「ベリーマッチとちぎ」に移住支援情報などが掲載されています。

宇都宮市の転入者数・転出者数・転入超過数の推移

宇都宮市では「ようこそ宇都宮へ フレッシュマン・若年夫婦・子育て世帯等家賃補助制度」を実施し、市が定めた地域の賃貸住宅に転居した子育て世帯等の家賃を一部補助。また、同市では宇都宮ともう一地域との関わりを持つ「ダブルプレイス(二地域生活)」という新しいライフスタイルを推奨していますが、「宇都宮と愉快に過ごす100のヒト(ダブルプレイス)」というサイトでは、移住者のインタビューや市の支援制度の紹介などがまとめられています。

子育て環境・支援が充実している宇都宮市の待機児童数はゼロが続いています。市内に12ヵ所ある「子育てサロン」では、お子さんの育児・健康に関する相談や情報の提供、親子同士の交流ができますが、季節の行事・クッキング・交通安全教室・遊び場の安全点検などを行う「母親クラブ」、おもちゃの貸し出しを行う「おもちゃ図書館」を運営するなど多彩な子育て支援を行っています。なお、妊産婦の健康医療費助成や中学3年生までの子ども医療費の助成も(令和3年度予算では、高校3年生相当まで助成対象を拡大)。

宇都宮市「子育て安心プラン実施計画」

栃木県は企業や団体と連携して栃木の女性を応援する「とちぎ女性活躍推進プロジェクト」を実施しており、就職関連情報や働く女性へのインタビューというさまざまなコンテンツを通して女性の活躍を応援するウェブサイト「とちぎウーマンナビ」を運営するほか、女性リーダーとの交流を促す「とちぎウーマン応援塾」等のイベントも多数開催。宇都宮市のハローワーク宇都宮には子ども連れでも安心して就職相談できるマザーズコーナーが設けられています。

宇都宮市内の生活情報

「とちぎ医療情報ネット」では休日夜間診療や助産所など県内の医療情報が検索できますが、夜間や休日の急病の際、比較的症状が軽い場合には宇都宮市夜間休日救急診療所、入院や手術などの治療が必要な場合には二次救急医療機関に転送されます。救命救急センターは済生会宇都宮病院があり、ドクターカーも運行しています。また、近隣の下野市には自治医科大学附属病院、壬生町にはドクターヘリの基地病院にもなっている獨協医科大学病院があります。

宇都宮の街は可住地面積が市域の約8割を占め、広域に住居が存在していますが、「ネットワーク型コンパクトシティ」形成は、ひとつにまとめるのではなく、市内14ヵ所に核となる地域拠点を定め、それぞれの拠点における機能・役割分担の明確化と拠点規模の適正化により都市機能の質や機能性の向上を図る構想です。そうしたなか、高齢化社会に対応する社会づくりの一環として、同市では5月から地域内交通にデジタル技術を活用した予約・配車システムを導入する実証実験を始めました。今後、14地区の地域内交通でシステムを導入していく意向です。

近年では「宇都宮餃子」以外にも「ジャズ」や「カクテル」、「自転車」、「プロスポーツ」など地域のさまざまな魅力を活かしたプロモーションにも積極的に取り組んでいます。また、「100年先も誇れるまちを、みんなで」を合言葉に「宇都宮プライド」を掲げ、高齢者や子どもたちなど、市内に住むすべての人が誇れるまちづくりを推進しています。保育園への入りやすさ、学童保育などが充実し、共働きファミリーにとっても住みやすい街として高く評価されていますが、中高年から子育てファミリーまで、各世代が安心して暮らせる宇都宮市は、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。

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