【地方都市の魅力】群馬県・前橋市 医療&子育てや住環境にも恵まれた新しい価値の創造都市
亀和田 俊明
2021/08/25 (水) - 12:00

7月末に発表された東京都の7月1日時点での人口は1404万9146人で、前月比で2418人少なく、2ヵ月連続で減少したことが分かりました。八王子市や町田市が増えたものの、23区内はテレワーク等の普及もあり、前月を下回っているほか、減少数は2945人で都全体を上回っています。コロナ禍で東京都から転出する人の動きは続いているといえるでしょう。昨年4月から政令指定都市や中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の魅力と実態をお伝えしてきていますが、今回は群馬県「前橋市」です。地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。

「子育てしながら働ける環境がある都市」で全国2位

9月下旬に前橋市内で米国コーヒーチェーン「ブルーボトルコーヒー」が開店するといいます。サードウェーブの代表格として知られ、2015年に進出した日本では、東京都や京都市、神戸市など大都市で23店を展開していますが、地方の中核都市では初。出店するのは、同市出身で2016年に前橋市のビジョン「めぶく。」を共同で策定しているジンズホールディングス社長の田中仁氏が建設を主導した白井屋ホテルのグリーンタワー。2008年に廃業した創業300年の老舗旅館の跡地に建つ同ホテルは、国内外の芸術家の作品が多く置かれていますが、衰退していた中心部の馬場川通りの通行量も増え、まちづくり指針のモデル事業として注目されています。

さて、前橋市は野村総合研究所の「成長可能性都市ランキング」(2017年)調査では、「都市の暮らしやすさ」で4位でしたが、「子育てしながら働ける環境がある」で2位だったほか、「移住者にやさしく適度に自然がある環境で仕事ができる」で4位、「リタイア世代が余生を楽しみながら仕事ができる」でも8位などと高い評価を得ています。子ども医療費補助の充実や待機児童数の少なさなどが評価され、子育て満足度ランキングは関東1位(2017年)です。

関東の北西部に位置する群馬県は、草津や伊香保など100ヵ以上の温泉地がある日本を代表する温泉大国なほか、山、高原、湿原、湖沼、河川など変化に富む豊かな自然があります。前橋市は同県の中央部よりやや南、雄大な自然を抱く赤城山のふもとにあり、市の中央部から南部にかけては海抜100m前後の関東平野の平坦地が広がり、西部を縦に流れる利根川の両側に市街地が開けている人口約33万人の県庁所在地で、同地ではさまざまな農産物も収穫されています。

前橋市は北西に連なる赤城、上信越の山々に囲まれ、やや内陸性を帯び年間降雨量は1247.4mmと少ないほうですが、年間の日照時間の合計値は2153.7時間で、例年11月から翌年4月にかけ晴天が多く、北西の季節風が吹き、特に冬季の風は強く、俗に「上州のからっ風」と呼ばれます。気温の差は大きく四季の変化に富んでいますが、夏季は気温が高く、激しい雷が起こります。1991年から2020年までの平均気温は15度で、2020年は15.8度と上がっています。

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陸路の場合、東京駅までは高崎駅経由になりますが、高崎駅からは上越・北陸新幹線で約50分、快速「アーバン」では上野駅まで約1時間50分と、都心へのアクセスの良さが魅力です。市内は、西部を縦断するJR上越線と南部を縦断するJR両毛線のほか、市を横断する上毛電気鉄道はみどり市や桐生市にもアクセス可能。路線バスは前橋駅周辺に集中し、複数系統が重なる駅前通りは高頻度に運行していますが、郊外への路線は頻度が低い状況です。

前橋駅の1日平均の乗車人員の推移

地域全体で共有するビジョンは「めぶく。~良いものが育つまち~」

2021年3月に国土交通省から発表された群馬県の公示地価は、全用途の対前年平均変動率はマイナス1.0%で29年連続の下落。用途別では住宅地がマイナス1.0%、商業地がマイナス1.1%、工業地がマイナス0.1%でした。商業地は観光地や市街地での下落が顕著でしたが、前橋市内では、中心部の店舗系商業地で新型コロナウイルスの感染拡大などから客の減少や収益の悪化に伴い、地価へのマイナス要因も大きくなったと見られています。

2021年の公示地価の変動率

前橋市の事業所数は約1万6千、従業員数は約16万人で、いずれも関東地方で11位。事業所数・従業者数は2009 年をピークにやや減少傾向にあり、2009年と2016年の「経済センサス」を比較すれば、事業所数は 12.6%減、従業者数は 7.5%減。増加が顕著な業種は「医療・福祉」ですが、事業所数では、「卸売業・小売業」が最も多く、「建設業」「宿泊業・飲食サービス業」の順。従業員数では、「卸売業・小売業」をトップに「医療・福祉」が続きます。

前橋市の事業所数・従業員数

前橋市は、「第七次前橋市総合計画」や新たに策定された「前橋市国土強靭化地域計画」に基づく、ハードとソフト両面からの施策を着実に推進するとともに、地方創生やまちづくりのキーワードである「地域経営」の理念を継続し、コロナ禍においても将来都市像「新しい価値の創造都市・前橋」の実現に向けて前進できるよう令和3年度予算では、重点的に取り組むべき事業は下表のように6つの「まちづくりの柱」に沿って主な事業が予算計上されています。

令和3年度の主な予算の内容

「新しい価値の創造都市・前橋」を将来都市像に位置付ける前橋市ですが、「市民一人ひとりが個性と能力を生かし、個々に輝くことにより新しい前橋らしさを創造するまち」を目指すまちの姿とし、その実現に向けて行政は多様な市民の活動を支えていくいいます。また、市民、企業・団体、行政それぞれが、「他人ごと」ではなく、「自分ごと」として、地域の課題を捉え、自主的・自立的に連携して課題解決に取り組むことが重要であり、そのためには、それぞれの主体が共有できる将来のまちの姿を持つことが大切であるとしています。

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(出典:前橋市「第七次前橋市総合計画(概要版)」より)

市民の生活満足度も高く、子育て世代に暮らしやすい街

前橋市の2020年の転入超過数は938人。同市の社会動態をみると、下表のように2015年以降は転入超過で、多少の波はあるものの、千人前後で社会増が続いています。なお、同市へ移住を希望する人のための窓口として「前橋市移住コンシェルジュ」が設置され、仕事や住まいの探し方から近隣との付き合いまで、さまざまな相談に応じているほか、アフターフォローまで行っています。毎月、「前橋市オンライン移住相談会」も開催。

前橋市の転入者数・転出者数・転入超過数の推移

移住の第一ステップとして活用できる「移住ガイドブック」が同市では用意されているほか、移住した人の暮らしぶりや移住コンシェルジュのコラム、前橋の魅力を伝えるタブロイド紙『susono(すその)』でも移住を検討するのに役立つ情報を提供しており、サイトからもダウンロードが可能。また、群馬県への移住を考える人のためのライフスタイルWEBマガジン『ぐんまな日々。』でも移住サポートの紹介や実際に暮らす人のリアルな声が聞けます。

前橋市では児童文化センターや子育てひろばなど、子どものための施設が充実していますが、妊娠、出産から子育てまで切れ目なくサポートする総合相談窓口の「まえばし子育て世代包括支援センター」では、母子保健コーディネーターや保育コンシェルジュ等の専門の相談員が対応します。また、同市が独自に行う、おたふくかぜの予防接種費用の無料化や第3子以後の保育所等の副食費無料化、さらに18歳までの入院医療費の無料化を新たに開始するといいます。

前橋市「子育て安心プラン実施計画」

群馬県では女性の就労支援の拠点として、群馬県若者就職支援センター(ジョブカフェぐんま)を高崎市に開設していますが、前橋市には、子育て中の女性と若者をメインターゲットにした就職支援施設「ジョブセンターまえばし」があり、丁寧なキャリアカウンセリングから一人ひとりにあった就職活動を支援しています。なお、同市では「まえばし女性活躍推進計画」を策定し、女性活躍推進のための取り組みを計画的かつ効果的に実施しています。

前橋市内の生活情報

群馬県は医療先進県を目指した取り組みを行っていますが、前橋市は一次から三次まで救急医療の提供体制を充実させており、三次救急医療の24時間体制の病院としては、前橋赤十字病院(高度救命救急センター)、群馬大学医学部附属病院(救命救急センター)があります。ドクターヘリは前橋赤十字病院を基地病院として運航し県全域をカバー。最寄りの病院や休日夜間急患センターを探すには、「ぐんま統合型医療システム」が便利です。

前橋市は、森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として109都市を対象にした「日本の都市特性評価2020」によれば、過ごしやすい快適性や再生可能エネルギー自給率が評価された環境分野で3位、物価水準の低さによる生活の余裕度、新規住宅供給の多さなどの居住環境、育児・教育、健康・医療等の各分野で高い評価を受けている生活居住分野では19位にランクされています。

前橋市では、デジタル最先端技術等を活用した「スーパーシティ」の実現により、日常の負担となっていることを軽減することで、日々の暮らしにゆとりが生まれ、そのゆとりで豊かな自然、歴史文化に触れ、食や文化を楽しみ、自分らしく生き生きとした生活を送る「スローシティ」の構想を目指していますが、4月には「スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定」に関する公募へ提案書を提出しており、その結果が待たれています。なお、同市ではマイナンバーカード、スマートフォン、生体認証などの複数の技術を組み合わせた独自の「まえばしID」を作成。

住居から病院までの距離が近く、市民220人当たり1人の医師が配置された全国屈指の医師数を誇るほか、買い物環境も充実し生活コストも安いため、市民の生活満足度が高い特徴がありますが、治安や安全性も高く、公園や緑地など憩いの空間が充実しているなど子育てには重要なインフラ要件等も満たすので、移住者ターゲットである子育て世代にとって暮らしやすい前橋市は、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。

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