拠点都市「札仙広福」にみる地域経済と再開発
亀和田 俊明
2023/07/05 (水) - 18:00

地方経済の拠点都市といえる「札仙広福」の四大都市ですが、「住民基本台帳人口移動報告2023」の転入超過数が多い上位20市町村でみると、4位に札幌市(8913人)、6位に福岡市(6031人)、13位に仙台市(2938人)がランクインしています。各都市は県庁所在地で、道県内からの移動も多いほか、県外からも移住先として人気が高いものがあります。また、2023年の公示地価においては、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも10年連続で上昇し、上昇率が拡大しています。今回は再開発も盛んな「札仙広福」の現在地について触れます。


「札仙広福」の公示地価は三大都市圏を大きく上回る

昨年、発表された森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として人口20万以上の国内の主要138都市を対象に総合的にまとめた「日本の都市特性評価2022」によれば、四大都市は上位にランクインしており、3位の福岡市は経済・ビジネスの分野だけではなく、文化的な魅力も高い評価を得たほか、仙台市は文化・交流面、住みやすさで、札幌市は文化・交流面のほか、観光都市としての評価などから、それぞれ7位、12位、広島市は13位でした。

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福岡市と仙台市は昨年と同順位ながらも札幌市と広島市は順位を下げ、惜しくも12位と13位。「札仙広福」と語られる地方圏では抜きんでた四大都市ですが、都市によって規模や成長度、格差もみられます。150万人を超える札幌市と福岡市の人口増加率は高く、特に福岡市は国際機能も評価されてグローバル都市化が成長をもたらしています。100万人を超える広島市と仙台市は広島都市圏の人口が減少する一方で、仙台都市圏の人口は増加を継続中です。

さて、コロナ禍で弱含んでいた地価はウィズコロナの下で、景気が緩やかに持ち直しているなか、地域や用途により差があるものの、都市部を中心に上昇が継続するとともに、地方部においても上昇範囲が広がるなど新型コロナウイルス拡大前への回復傾向が顕著です。国土交通省が3月に発表した公示地価(2023年1月1日時点)では、全用途の全国平均が前年比で1・6%上がって2年連続で上昇。住宅地は1・4%、商業地も1・8%といずれも上昇しました。

「札仙広福」を除く地方圏の住宅地平均はプラス0・4%で1995年以来28年ぶりに上昇に転じ、新型コロナウイルスの影響で弱含んでいた地価は、景気の緩やかな持ち直しや訪日外国人旅行者の回復などで、東京や大阪などの主要都市だけでなく、地方でも上昇が広がりました。住宅地は三大都市圏が昨年の0・5%から1・7%と上昇率が拡大し、地方では札幌、仙台、広島、福岡の4都市が住環境や利便性の良さで人気が根強く、8・6%と10年連続の上昇でした。

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札幌市は住宅地で15%と大幅に上昇。同資料によれば中央区及び隣接区では住環境や利便性が良好なエリアを中心に需要は堅調で、中心部との相対的な割安感のある厚別区、白石区など市外縁部にも戸建住宅の需要が広がることから地価の上昇が継続。仙台市の住宅地も5.9%の上昇で、中心部の利便性良好なエリアでは引き続き需要は顕著であるとともに、土地区画整理事業等の大規模開発が進む地域などでは地価の上昇が続いています。

広島市の住宅地は1.7%の上昇となり、中心部の住環境が良好な地域や郊外部の駅周辺、大型商業施設周辺の生活利便性が高い地域で需要は顕著で、地価の上昇が継続。福岡市でも住宅地は8.0%で、中心部の希少性が高い高級住宅地では上昇が続いており、中心部と比較し割安感を残すエリアでは地価が上昇しています。また、市内のマンション販売は好調であるものの、マンション開発素地の供給が少ないことから、マンション用地の地価の上昇が継続。


「高さ制限」や「容積率」の規制緩和などで活発な再開発

コロナ禍でも都道府県庁所在地の中では堅調だった四大都市の商業地を資料でみると、札幌市は9.7%の上昇。札幌駅南口ビジネス街等のオフィス需要は、空き室率の低い状態が継続するなど堅調であり、札幌駅北側や北海道新幹線のホームが設置される札幌駅東側等では再開発計画が進展していることから地価の上昇が継続。飲食店などが集中するすすきの地区では人流が回復傾向となったことにより収益性が回復し、地価は上昇に転じました。

仙台市の商業地は6.1%の上昇で、オフィス需要は堅調に推移しています。再開発計画等が進展する仙台駅周辺及び東北大学農学部跡地の周辺では引き続き需要が旺盛であり、上昇が継続しています。一方で国分町地区の繁華街では人流が回復傾向にあるものの、仙台駅周辺と比べて店舗の出店意欲が戻っていないことから、地価の下落が継続しています。現在、仙台市では仙台駅だけでなく一番町一帯も対象となる「せんだい都心再構築プロジェクト」が進行中です。

広島市の商業地は3.7%の上昇で、広島駅南口広場再整備事業による発展期待から広島駅周辺では需要が強まっています。また、再開発が進む八丁堀・紙屋町周辺のオフィス需要は堅調であり、人流の回復により店舗需要も回復傾向にあることから、地価の上昇が継続しています。八丁堀では高層ビル3棟が2028年度までに完成予定であるほか、紙屋町では地上50階建てビルの建設の検討、中央公園広場には「HIROSHIMAスタジアムパーク」が2024年に開業予定です。

福岡市の商業地は10.6%と四大都市で最も上昇しています。天神地区や博多駅周辺のオフィス需要は堅調であり、その周辺ではオフィス需要に加え、マンション用地の需要が旺盛となっており、地価の上昇が継続しています。2026年末までにビル約70棟を集中的に建て替える「天神ビッグバン」が進められているほか、JR博多駅周辺での再開発促進事業「博多コネクティッド」でも博多駅に高さ60メートルの複合施設が2028年末までに整備される計画です。

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近年、地方の中核都市においては、駅前の利便性の良い場所にタワーマンションが次々に完成し話題となっていますが、四大都市においては、前述のように中心部の再開発によりオフィスやホテル、商業施設などが入居する高層ビルです。この建設ラッシュは、「高さ制限」と「容積率」の規制緩和によるもので、仙台市では2019年に容積率を最大2倍とし、福岡市は2014年の国家戦略特区の指定を受け航空法の高さ制限を緩和しています。


企業誘致促進、新産業やスタートアップの創出支援へ

道内や県内で地域内の人口が集中している四大都市ですが、現在はいずれも主要駅周辺や市中心部等で再開発事業が行われ、オフィスだけでなく、商業施設や高級ホテルなどの建設も進められており、地方都市では最も元気な都市といえます。特に地域圏における大都市なだけに古くからの建造物が多く残されているためにビルの老朽化が心配されていましたが、建て替えなど官民による中心部の大規模再開発で街が生まれ変わろうとしています。

以前は、大企業や官公庁などの支店が多く置かれていたことから『支店都市』とも呼ばれていた「札仙広福」ですが、最近では企業誘致を強化しているほか、再開発や投資が活発化しています。一方で、地元企業の育成、成長を促進する支援策、スタートアップ企業の創出・支援を行う取り組みを四大都市とも積極的に行っています。令和5年度においても下表のように、企業誘致やスタートアップの創出支援など産業分野において注力する施策が掲げられています。

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仙台市では、「地域経済活性化・観光再生元年」を掲げていますが、便利で豊かな暮らしの実現に向け、デジタル技術等による「学都」の知の力を生かした活力創出を図るとしています。一方、年間50社以上が立地するという「商都」福岡市は、「天神ビッグバン」と「博多コネクティッド」という街が生まれ変わるような二つの大きなプロジェクトが進行中ですが、アジアに臨む九州の拠点として、企業誘致やスタートアップ支援も積極的に行われています。

首都圏などへの人口流出が深刻な課題となっている地方都市において、四大都市は大規模な再開発による都市の再生が進められており、地元に雇用創出や経済成長をもたらす明確なビジョンがあります。地方都市においてイノベーションの担い手であるスタートアップ企業は重要な存在であり、世界と戦えるグローバルスタートアップ企業を創出することも望まれるほか、何より他都市への転出を抑え地域内に留め、首都圏等からの移住者を促すことも必要でしょう。

都市機能をはじめ交通アクセスや自然にも恵まれ、首都圏に比べれば住宅コストも安価な代表的な地方都市が「札仙広福」ですが、住環境や利便性の良さなどで人気が根強く、道内や県内からの人口移動が多いのはもちろん、首都圏在住者にも人気の高い地方都市です。企業やホテル誘致、新産業の育成や起業支援により雇用創出も期待されますし、大規模な再開発が数年先まで続いていきますので、引き続き「札仙広福」の四大都市の動きが注目されます。


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