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映画『おだやかな革命』から見える日本の未来/地域活性機構 リレーコラム
亀和田 俊明
2018/03/02 (金) - 08:00

自然エネルギーによる地域再生にフォーカスした渡辺智史監督のドキュメンタリー映画『おだやかな革命』の東京での劇場公開が始まり、メディアで紹介されると共にSNSなどを通じて話題となっています。福島や秋田、岐阜、岡山などを訪ね、自然や人、地域と向き合いながら、これからの暮らしを自らの手で作っていく穏やかで力強い挑戦の姿を追っています。

伝統野菜の種をめぐる映画『よみがえりのレシピ』

私が企画・運営に携わっています地域食材の発信プロジェクト「Cook Nippon」では、2017年に地方創生カレッジで「伝統野菜などを基軸にした地域活性化」という講座も開講していますが、2015年に開催した「全国伝統野菜Close Up!フォーラム」では、渡辺監督の前作『よみがえりのレシピ』(ミラノ万博用短縮版)を上映したご縁があります。監督の故郷でもある山形を舞台にさまざまな伝統野菜と種を守り継ぐ生産者や料理人、学者などに迫った映画でした。
https://chihousousei-college.jp/e-learning/expert/sectoral/other/041.html

日本各地には、それぞれの土地の気候風土や食文化と密接な関係を持つ数多くの伝統野菜が大切に受け継がれながら残っています。京野菜や加賀野菜のように各地でブランド化する動きが顕著な一方、生産性や収益性、生産者の高齢化などにより残念ながら栽培が途絶えてしまう伝統野菜も少なくないのが実情です。北は北海道から南は沖縄までほとんどの土地に伝統野菜がありますが、とりわけ東北地方、山形県には庄内地方を中心に数多く栽培されています。

『よみがえりのレシピ』では、永い時間や世代を超えて味、香り、さらに栽培技術や調理方法などを現代に伝えてきたものの、大量生産、大量消費、大量廃棄といった高度経済成長期に適応できず、不幸にも忘れ去られていた「生きた文化財」ともいえる伝統野菜を見つめ直しました。伝統野菜の種を守る人々の姿を通して風土に根付いた食文化、そして、そこから生まれた新しいコミュニティについて描かれています。

現在、貴重な地域資源として見直されている伝統野菜を知ることは、食と農業の豊かな関係を知ることにもつながります。地域に伝統野菜がよみがえり、継承されていくことは、豊かな食を育み、地域社会の人の絆を深めてつながっていく姿でもあります。「この動きを日本全国、さらには世界中で起きている食や農業の問題への処方箋(レシピ)として、伝えていきたい」と発信されたものでした。

自然や人、地域と向き合った穏やかで力強い挑戦

渡辺監督の映画は、『よみがえりのレシピ』もそうでしたが、制作から配給に至るまでを一手に監督自身が務めているのが特徴です。前作は、全国300ヵ所で映画館やホール、イベント会場などを含め草の根的に上映されましたが、今回も実施された映画制作や映画宣伝の経費などを募ったクラウドファンディングでは、344名の方から約520万円の支援が得られ、特典には映画の上映権などもありますので、各地で自主上映会も数多く開かれることでしょう。

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日本各地の穏やかで力強い挑戦の姿を追ったドキュメンタリー映画

さて、映画は東日本大震災やそれに伴う福島第一原発事故により様変わりしてしまった福島県飯館村から始まります。日本各地で従来の大きなシステムに依存せず、自らの手により地域の自然資源を生かすことで地域を支えるエネルギーや仕事、そして新しいコミュニティを生み、本来は当たり前にあったはずの本当の豊かさを取り戻していこうとする人々の穏やかながらも力強い動きがスクリーンを通して伝わってきます。

放射能汚染によって居住制限区域となった畜産農家が立ち上げた福島県飯館村の飯館電力。原発事故後に酒蔵の当主が設立した福島県喜多方市の会津電力。集落存続のために全戸が出資した岐阜県郡上市・石徹白の小水力発電。さらに首都圏の消費者と地方の農家、食品加工業者が連携して進めている秋田県にかほ市の市民風車。森林資源を生かした村づくりを目指し薪ボイラーを活用した地域循環を試みる岡山県西粟倉村の取り組みなどが紹介されます。

被災者、地方への移住者、都市生活者、それぞれが各地でエネルギー自治を目指すことで、お金とかモノだけではない、生きがいや喜びに満ちた本質的な暮らしの風景が生まれていきます。成長や拡大を求め続けるばかりに現代社会が見失ってしまった、これからの時代の「豊かさ」を問いかけています。エネルギーやモノづくりを通じた「おだやかな革命」は規模は小さいものの、ゆっくりと確実に日本各地で始まっていると実感できます。

「暮らしの選択」をドキュメンタリー映画のテーマに

今回の作品は、前作の制作や興行に忙しく、東日本大震災の被災地に関われない時期に会津電力の社長と出会い、電力に関心を持ち、取材を始めたことをきっかけとしていますが、「全国のさまざまな地域で、ご当地電力、市民電力が盛り上がりを見せ、自分たちの地域を何とかしようと立ち上がっている人々がいます。新しい市民社会の形が生まれつつあります。人々のそんな新しい動きを一人でも多くの人に届けたい」と渡辺監督は語っています。

そうした監督の思いは、エネルギー問題に終始することなく、「暮らしの選択」をテーマに据えたドキュメンタリー映画へと結実しました。豊かさとは何か、幸せとは何か、捉え方は各人各様で、映画の中でも「合理性、コスト、効率、利益、スピード、その中で一生懸命生きているけれど果たして幸せですか」と語られるところがありますが、経済成長社会の中で見失われた価値観に気づき、自ら選択することで暮らしや地域を変えていくことができます。

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100世帯の小さな集落で立ち上がった小水力発電(岐阜県郡上市・石徹白)

映画に登場する石徹白という地域は、岐阜県郡上市にある約100世帯の小さな集落ですが、伝統文化や暮らしを大切にする移住者を起点に、地域に残る農業用水路を使った小水力発電事業が立ち上がり、地域の価値に気づき始めた地域住民との未来づくりの様子に触れられています。今では世帯数の2倍となる電気を生み出しているほか、この土地では10年間で新しい住民が13世帯で40人にも増えているといいます。

以前は人口も少なく、流出人口が多かったような地域、課題だらけだった地域に都市部からの若い移住者が増えていき、地域が直面する課題に真摯に向き合って発想を転換させ、持続可能な先進地域に変化していく様、そこには課題解決へのヒントが、そしてチャンスがあります。顔の見えるコミュニティで、地域の人や自然とつながることにより手応えのある可能性や未来を感じ、作り出していく移住者の姿には希望があります。

人口減少時代の「豊かさ」とは何かを考える

2018年1月に総務省が公表した「田園回帰」に関する調査結果では、過疎地域の人口の少ない地域ほど移住者が増えている実態が明らかになったといいます。それは東日本大震災後、特に顕著のようです。移住者が増えた区域の割合は人口2000人未満で最も多く、人口が少ないほど割合が増える傾向が鮮明に表れました。年齢別では、20~30代が最も多く、若い世代の過疎地域への自主的な移住が確実に増えており、田園回帰の潮流が改めて分かるものとなりました。

昨今、過疎化、限界集落、消滅都市など不安を煽る文字と共に人口減少社会という言葉が流布していますが、都市部から地方へと移住した若い世代の人たちが古くから住む地域の人たちと協力して地域を活性化させる、こうした動きは地方での新しい暮らしの豊かさを編み出し、都市部とは異なる独自の魅力を創出しています。新しいことが生まれている地域に人は惹かれ、活気も戻ってくるのではないでしょうか。新しい日本の未来を予感させます。

映画でも若い移住者たちがみな生命力に溢れ、起業家精神で自らエネルギーによる事業を起こし、雇用を生み、お金も地域で循環する仕組みが試みられますが、今や小さなコミュニティの中で不可欠な存在になっていることがうかがえます。環境問題を学び、持続可能性について考え、社会とつながり、貢献したいと思う人たちは地域の価値に可能性を感じていますが、地域に残る資源や高齢者の智慧や経験をどう生かすか、という視点も忘れてはなりません。

『よみがえりのレシピ』を観た映画『幸せの経済学』のヘレナ・ノーバーグ=ホッジ監督が「地域のタネを大切にすることなしに、穏やかで持続可能な未来の暮らしを実現することはできない」とコメントしました。同様に地域の運命、地域の暮らしの豊かさは地域の資源なり、エネルギーなり、自然や人とのつながりを疎かにすることなく、大切に捉える住民の手にかかっていますが、そうした動きや声を施策に反映させていく自治体のサポートもますます重要です。
(『おだやかな革命』は現在、東京にある「ポレポレ東中野」にて上映中です。)

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