地方企業の経営幹部の魅力「東京の歯車から地方の心臓へ」
地方企業の経営幹部の魅力「東京の歯車から地方の心臓へ」
株式会社日本人材機構 代表取締役社長 小城 武彦
月刊事業構想 編集部
2018/12/14 (金) - 11:00

「東京の歯車ではなく、地方の心臓に」。そんな想いを描き、都会のビジネスパーソンが地方企業に転職する時代が訪れている。本編では、「地方企業の経営幹部」という働き方の魅力を、日本人材機構社長の小城武彦が解説するとともに、実際に地方企業で活躍する右腕人材や、企業経営の真剣勝負に挑むオーナー経営者たちを紹介する。第1弾は、日本人材機構社長の小城武彦が解説する。

地方創生はこの国の課題ではなく、希望だ

今日、多くの首都圏ビジネスパーソンにとって、「地方企業で働く」ということは現実的な選択肢に入っていないと思います。その理由の一つに、地方経済に対する正確な認識が欠けているという点があるのではないかと思っています。つまり、過小評価です。

東京で行う講演やセミナー等で、よく私はこういう質問をします。
 「日本のGDP(名目)は500兆円を超えます。そこから、首都圏の一都三県(東京、千葉、埼玉、神奈川)と、名古屋市、大阪市の相当分を差し引いてみてください。これを地方経済圏としましょう。いったい、どれくらい残ると思いますか。」 皆さんは、どのくらいだと思われるでしょうか。

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一番多い回答は、「100兆円以下」というものです。9割以上の方がそう答えます。なんと正解は、300兆円以上です(図1)。つまり、この国が生み出す付加価値の約6割を「地方」が生み出していることになります。この事実に皆さん驚かれます。その地方経済圏に大きなポテンシャルが眠っているのです。
だから私は、「地方創生はこの国の課題ではなく、希望だ」と考えています。

「右腕」求む

その「希望」を現実のものにするために必要なもの。それは人材の力です。地方企業には人材、それも幹部クラスの人材が徹底的に不足しています。地方企業の多くがオーナー企業です。
オーナーが今後の事業戦略について社内に相談相手もなく、たった一人で頭を悩ませています。少子高齢化はとっくに到来しており、内需の縮小も止まりません。地方企業が置かれている経済環境には大変厳しいものがあります。
一方で、地方には独自の強みを持っている企業が数多く存在します。しかし、その強みを強みとして生かし切れていない企業も少なくないのです。

小城 武彦

「いったい、今後どの方向に舵を切ればよいのか」。多くのオーナーが、社内にはない知恵や経験を有している「右腕」を必要としています。首都圏で働くビジネスパーソンが名乗りを上げ、その力を地方企業で発揮してもらえれば、地方経済、そしてこの国の経済そのものを大きく成長させることができるのです。政府はGDP600兆円を目指していますが、それを作り出す「カギ」は地方にあると私は考えています。

「事業の原型」を見よ

首都圏のビジネスパーソンにとっても、地方で経営幹部として働くことは大きな成長の機会になると思います。
私自身の経験に基づく話ですが、地方の中小企業で働くことで、ビジネス上の手腕、特に経営技量は飛躍的に向上すると思います。今では大きくなりましたが、当時はまだ大阪のベンチャーだったカルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA)で増田オーナーの下で働き、自分の力は大きく伸びたと実感しています。

大企業と中小企業の仕事比較

図2は、ビジネスネススクールの講義などでよくお見せするものです。大企業と地方中小企業の仕事を対照的に比較しています。分業が進んでいる大企業と異なり、中小企業では規模が小さいが故に事業全体が視野に入ります(「統合」)。ステークホルダーの顔と名前もほぼ一致するだけでなく(「顔が見える関係」)、顧客、社会との距離も近いため、顧客・社会の反応をヴィヴィッドに感じることができます(「手触り感」)。地方中小企業の大半は非上場会社です。だからこそ、四半期決算の数字に縛られることなく「長期」的な視点で事業を展開することが可能になります。厳しい社内競争にさらされるというよりは、仲間と共に価値を創造していく職場環境であり(「共創」)、通勤時間15分、20分程度の職住接近のためワークライフバランスを敢えて言う必要もありません。「ワークライフ融合」とも言いえる環境で仕事をすることができます。

私は、この地方の中小企業こそが「事業の原型」だと考えています。大企業も昔は、そうだったはずです。だから、地方企業への転職を悩んでいる方には、「一度、事業の原型に身を置いてみませんか」と話しています。

経営リアリティーのある現場とは

図3 右腕の仕事とは?

こうした特徴を持つ地方の中小企業の経営幹部職、「右腕」の仕事はリアリティーに溢れています(図3)。まずは「経営のリアリティー」。会社の経営資源全体を正確に把握できますので、それを踏まえた実現性の高い事業戦略を練ることが可能です。そしてハンズオンで実行の指揮を執ることになります。顧客や競合が常に近くにいますから、反応をダイレクトに感じることができます。事業戦略の実行の担い手である従業員もすぐそばにいます。
彼ら彼女らがどのように働いているのか、どんな家族がいるのかといった人間的な営みも見えてきます。規模が小さいため、売上から純利益まで一気通貫で見通せるだけではく、自分が決めた戦略によって、財務諸表がどう動くのかがリアルに見えることになります。

もう一つは「意思決定のリアリティー」です。社内調整はほとんどオーナーのみであり、そこさえクリアできれば自分自身の意思決定で事業全体を動かすことができます。言い方を変えると、自分一人の意思決定で事業全体が動いてしまうのです。したがって、責任は明確に自分自身にあることになります。大企業のように、何人もの上司の決裁を取り、様々な部署が介在して進める仕事とは全く異なります。言い訳が介在する余地はありません。白黒が明確につき、成功・失敗はすべて自分が背負うことになります。当然ですが、その分やりがいは段違いです。

自分の価値は何か

次に、こうした「右腕」の仕事をすることが個人のキャリアにとってどんな意味があるかを少し考えてみたいと思います(図4)。

図4 右腕を経験する意味とは


大企業から中小企業に転職する際に直面するのは、「個人としての自分は、一体何ができるのか」という根源的な問いになります。中小企業では、「元○○会社の○○長」という昔の肩書はほとんど意味を持ちません。具体的に何ができるのか、が問われることになります。大企業出身の方にとっては、肩書のない「自分自身」の価値・役割を見つめ直す良い機会になるのではないでしょうか。
同時に、「自分は『仕事』に何を求めるのか」、「自分にとって『仕事』とは何か」といった自らの「職業観」に対峙する機会にもなると思います。「本当にこの仕事が好きなのか」、「自分の力を発揮できているのか」といった自問自答をする機会にもなるでしょう。
大きな組織にいるとついつい考える機会を逸してしまう、こういった大切な「問い」に早いうちに向き合っておくことは個々人のキャリアを考えていくうえでもとても大切なことだと私は考えています。

オーナーというロールモデルの存在

もう一つ、これまで出会ったことがないロールモデルに出会えることも大きな魅力です。言うまでもなく「オーナー」という存在です。地方企業のオーナーの多くは、事業、雇用だけではなく、地域経済をも背負っています。
金融機関からの借入れに個人保証を入れているケースも多く、多大なリスクを背負いながら事業をけん引しています。だからこそ、時間感覚、金銭感覚にはとても厳しいものがあります。

よく、テレビなどで中小企業のオーナー社長が朝早く出社して、たった一人で工場や店舗を掃除している姿を見ることがあると思います。なぜオーナーは社長なのに自ら掃除をするのでしょうか。大企業ではまずありえない光景だと思います。私もオーナー企業に実際に勤める前はその理由を考えたことすらありませんでした。

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理由は明確です。オーナー社長にとって、工場や店舗は「自宅の居間」なのです。心血を注いで作った工場や店舗を掃除するのは、まさに我々が自宅の掃除をするのと同じことなのです。
オーナー会社に勤めると、こういったオーナーの生き様を間近で見ることができます。人を見る眼力の鋭さ、リスクをとるときの殺気立った迫力など、人生をかけて事業を作ってきた人ならではの凄みを感じながら多くを学ぶことができます。サラリーマンとは大きく異なる経営者の姿を見ることになるのです。一生に一度、こうした経験をすることは大企業に勤めるビジネスパーソンにとっても、大きな意味を持つのではないかと私は考えています。

下がらない報酬レベル

地方企業への幹部人材の紹介を始めて、嬉しい誤算がありました。それは、報酬レベルが下がらないこと。逆に上がるケースも珍しくありません。地方企業のオーナーは、まさか首都圏から経験豊富なビジネスパーソンが転職してくれるとは思っていない。これまで中途採用の経験は、ハローワークか縁故採用しかないからです。そこに、自分の想像を超えた力ある人材が現れる。
そうすると、何としてでも採用したいと考える。人事制度の例外をつくることなど大きな問題ではないのです。

得られぬ経験の宝庫

首都圏のビジネスパーソンに地方企業を紹介するとき、私はこのような少し強い言葉を使います。「東京の歯車ではなく、地方の心臓になりませんか」地方企業のオーナーの右腕として、企業経営の真剣勝負に挑むこと。それは、まさに「心臓」になることを意味します。
そして、地方の心臓になるということは、自分が活躍すれば、企業は間違いなく成長し、地域をより良くできることを意味します。
「自分の活躍=企業の成長=地域の発展」。この恒等式は、首都圏の企業では成立しえないものです。この点も地方企業のオーナーの「右腕」という仕事の醍醐味だと思います(図5)。

図5 右腕の醍醐味

 
いかがでしょうか。地方企業のオーナーの「右腕」という仕事を、今後の人生の選択肢に加えませんか。首都圏ではなかなか手に入らない「やりがい」と「自身の成長」が貴方を待っています。

小城 プロフィール

株式会社日本人材機構 代表取締役社長 

小城 武彦(おぎ たけひこ)

1961年東京都出身。東京大学法学部卒業後、1984年、通商産業省(現経済産業省)入省。1991年プリンストン大学ウッドローウィルソン大学院修了(国際関係論専攻)、1997年カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社入社、代表取締役常務などを経て2004年株式会社産業再生機構入社、カネボウ株式会社代表執行役社長(出向)。2007年丸善株式会社(現丸善CHIホールディングス株式会社)代表取締役社長を経て、2015年より株式会社日本人材機構代表取締役社長。2016年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。株式会社西武ホールディングスと株式会社ミスミグループ本社 社外取締役、金融庁参与を兼務。

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