「組織の成長のためには社長自身が変わること」

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「組織の成長のためには社長自身が変わること」
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手直行さん
協力:WEDGE Infinity 編集部
2017/11/09 (木) - 08:00
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長野県を拠点としてクラフトビール界の雄として君臨しているのが株式会社ヤッホーブルーイングです。超がつくほど個性的なネーミング、インスタ映えするラベル、そして何よりその味で多くのファンから愛飲されています。一方で、首都圏から多くの人材を惹きつける、働きがいのある企業としても認知されています。代表取締役社長・井手直行さんは、かつては「どん底」にまで落ちたといいます。そこから這い上がり、国内を代表するクラフトビールメーカーへと成長したカギは、人材の力と、人材活性化への努力にありました。株式会社日本人材機構の代表取締役社長を務める小城武彦が、そのプロセスに迫ります。

小城:「よなよなエール」「水曜日のネコ」「インドの青鬼」など個性的なネーミングのクラフトビールが人気ですね。12年連続の増収増益だとうかがいました。

井手:おかげさまでファンの皆様に喜んでいただいています。

小城:会社の設立は1996年で、2004年からインターネット通販を手がけて業績を上げられました。

井手:そのとおりです。ただ、私たちは初期のころに一度どん底を味わっているんです。最初は7人で立ち上げた会社ですが、創業から8年連続の赤字でした。会社が潰れるのではという危機感があって、当然、雰囲気は暗い。社員も受け身な姿勢で淡々と作業をこなすような空気でした。「これは社員全員が『ビールを通して幸せを届ける』という同じ方向を向く組織作りが先決だぞ」と思いましたね。

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小城:それは素晴らしいですね。どの企業でも、会社が目指す方向と自分が目指す方向の接点を見いだして働ける人材は大きな力になります。私は今、日本人材機構という会社のトップとして、働きがいのある地方の中小企業で、自分の力を最大限に発揮できるビジネスパーソンを一人でも増やそうと思って仕事に取り組んでいます。

井手:私たちのように、地方に本社を置く会社をサポートしているわけですね。

小城:そうです。人材に関して言うと、御社は「知的な変わり者」であることを重視していると聞きました。

井手:はい。「知的な変わり者」とは好奇心が旺盛で、新しいものごとへの感度が高く、枠にとらわれない発想ができる人間のことです。実際、失敗を恐れず自発的に行動し、積極的にチャレンジする社員たちが今の会社を支えてくれています。私たちは本社が長野県の軽井沢にあるので、自然が豊かで、満員電車の通勤ストレスもなく、のびのびとした環境に魅力を感じてくれている社員も多いようです。

小城:それが地方で働くことの魅力の一つでもありますね。

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井手:そう思います。今お話したように、現在のヤッホーブルーイングは主体的に仕事を楽しめる人材が多い会社になってきていると思っています。ただ、最初は違いました。初めにお伝えしたとおり、停滞感があったんです。私が社長に就いた2008年に主体的な組織に変えようと社員に働き掛けたのですが、なかなかうまくいきませんでした。力不足を感じていた時に経営者仲間から聞いていた「チームビルディング」という組織作りの研修を受けまして、これが大きな転換期になりましたね。

小城:どのような効果があったのですか。

井手:まず私の考え方ががらっと変わりました。それまでの私は社員を変えようとしていたんです。「なぜできないんだろう?」「なぜ自分と同じ考えで働けないんだろう?」と思っていたんですね。その不満を講師の方に話すと、「今の言葉はあなたの鏡なんです。社長に対して社員も同じストレスを抱えています。社長が変わらなければ会社は育ちませんよ」と言われて、はっと目が覚めました。

小城:社長が変わる。これはどの企業にとっても重要なメッセージですね。

井手:そのとおりです。結局、会社というのは社長の器で決まるんです。社長が積極的に知恵やスキルを身につけて、社員の意見にも耳を傾ける必要がある。経営者の器が小さければ、組織の規模はそれ以上にはならないと思います。

小城:おっしゃるとおりだと思います。「チームビルディング」の研修を通して、他に変わったことはありますか。

井手:雰囲気はもちろん、組織としてのあり方も良くなったと思います。私が社長に就任した当初、中途採用の女性社員にこそっと「社長、うちの会社の朝礼はお通夜みたいですね」と言われたことがありました(苦笑)。私一人が話して、社員はただ聞いているだけ。そんな感じだったんですね。

小城:私も仕事柄、地方企業のオーナー様と多く話をしますが、お通夜のように暗い朝礼に悩んでいる経営者は多いと感じています。それがどのように変化していったのでしょう?

井手:自分が受けた「チームビルディング研修」をそのまま会社に持ち込んでみたんです。「チームビルディング研修」は座学や懇親会、アクティビティなどを通してお互いの人柄や考え方、それぞれの個性を知るような形式になっています。たとえば、巨大なくもの巣に見立てたロープを張って、そのロープに触らないようにチーム全員がくぐり抜ける、というアクティビティがあります。これを成功させるにはどうすればいいか、時には意見がぶつかり合いますし、自発的に戦略を立てる人間も出てきます。

小城:必然的に社員同士がコミュニケーションをとるわけですね。会社という組織で成果を出すためには非常に重要なことです。

井手:そうなんです。意見を出し合い、それぞれの考えに耳を傾けながら、なんとかアクティビティを成功させる。この過程と達成感を共有することにとても意義があって、今ではそのスタイルがそのまま仕事に取り組むうえでも反映されるようになっています。今の朝礼では社員がそれぞれプライベートや趣味の話をしていまして、コミュニケーションの密度が濃くなったと思います。組織としてスタッフ間の距離がぐっと縮まっている実感がありますね。

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小城:なるほど。先ほど「社長の言葉は社員の鏡」「会社というのは社長の器で決まる」という言葉がありました。今の御社は各部署に「よなよなエール広め隊(広報)」「ハッピーお届け隊(出荷)」「ヤッホー盛り上げ隊(人事総務)」といった名前をつけていて、とても楽しそうです。これも井手社長自らが仕事を楽しんでいるからのように思えます。

井手:そうだといいですね。私たちの仕事は「ビールを通したエンターテインメント産業」だと考えています。だからこそファンの皆様に喜んでもらうためにはまず、自分たちが楽しむ必要があるという意識が浸透しています。私が社長に就任した2008年とは全く別の組織ができあがっていますね。

小城:会社全体が同じゴールを目指しているわけですね。

井手:そこがぶれないように意識はしています。おかげさまで「Great Place to Work(R) Institute Japan」という専門機関が発表した「働きがいのある会社」調査で、2017年版のベストカンパニーに選出されました。経営者である私自身が考え方を変えたのが大きかったですし、社員それぞれの得手不得手や人間性を全員で共有し、誰もが発言しやすい雰囲気ができあがったのはプラスに作用していると感じています。「チームビルディング研修」という外部の知恵を借りたことで、会社が好転したのは間違いありません。

小城:私たち日本人材機構も、外部から地方企業を支援しています。経営者の悩みを聞き、その課題を主体的に解決できる幹部候補の人材を紹介する取り組みです。私たちは「伴走型サービス」と呼んでいるのですが、コンサルティングから採用後まで長い時間を掛けて手厚くサポートしています。

井手:確かに外部から入社した中途採用者は深い知見があるので、頼もしいですね。私たちの会社でも今、幹部にあたるディレクターという役職では首都圏の大手企業で部長クラスだったような人間が活躍しています。私たちは年に1回、「ディレクター立候補プレゼン」というものを実施しているのですが、中途採用者はほとんどが入社後にしっかりと会社に溶け込んで、しばらくすると「ディレクターとして活躍したい」と手を挙げてくれました。彼らはもともと持っていた強みをさらに生かし、より能力を発揮できています。

小城:私たちも、エキスパートとして経営者にきちんと意見を言えるような幹部候補が必要だと考えています。

井手:それは大切なことですね。私たちは社員同士がコミュニケーションを密に取って、各自の得意分野や個性をきちんと尊重し合う、フラットな組織を目指しています。たとえば私がターゲットでない商品であれば、私の意見が受け入れられない時もあります。ただ、私はそれこそが健全だと思っています。

小城:自分が絶対に正しいわけではない。そう考えられる姿勢が経営者には必要ですね。

井手:私もそう思います。経営者の私自身が意識を変える勇気を持ち、全員が「ビールに味を!人生に幸せを!」という同じ方向を見ることで活気が出ましたし、中途採用者を含む社員の発想や特性を生かしてきたことが今の成長につながっているのかなと思います。

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井手直行(いで・なおゆき)

1967年生まれ、福岡県出身。オーディオ会社や広告代理店勤務を経て、創業から株式会社ヤッホーブルーイングに関わる。2004年からネット通販を担当して業績を伸ばし、2008年に代表取締役社長に就任。「一体感が強く、一つのゴールに向かって進める組織作り」を重視する。

株式会社ヤッホーブルーイング

1996年設立。クラフトビールの製造販売を手掛ける。本社は長野県軽井沢町、醸造所は同県佐久市。インターネット通販を通して黒字転換を果たした。「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションに掲げ、個性的な製品展開で日本のビール市場に新風を吹き込んでいる。「よなよなエールの超宴」といったファン参加型のイベントも実施。

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小城武彦(おぎ・たけひこ)

1961年生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業後、1984年、通商産業省(現経済産業省)入省。1997年カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社入社、代表取締役常務などを経て2004年株式会社産業再生機構入社、カネボウ株式会社代表執行役社長(出向)。2007年丸善株式会社(現丸善CHIホールディングス株式会社)代表取締役社長を経て、2015年より株式会社日本人材機構代表取締役社長。

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