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地域の有名店と利用者をつなぐ新しい「食のプラットフォーム」を広域展開へ
有限会社丸和
GLOCAL MISSION Times 編集部
2018/05/09 (水) - 08:00

「シェフズ弁当」など地域性を活かしたお弁当を切り口に、飲食店と利用者をつなぐ新しい食のプラットフォームビジネスを展開する有限会社丸和。休眠状態だった同社を再生し、地域経済に貢献する新たなビジネスモデルを確立。本拠地を置く岩手県釜石市から広域的な展開を目指す代表取締役社長の小澤伸之助氏にお話をうかがいました。

突然の社長就任、そして東日本大震災

父である先代の急逝により、小澤社長が現職に就いたのは2008年、31歳のときでした。大学卒業後、祖父の求めでいったんは故郷に戻ったものの、そのまま家業に携わるのでは自身の成長につながらないと、大阪で実務を学びながら公認会計士の資格勉強に励み、監査法人への就職、これからというタイミングでの出来事でした。

故郷・釜石市に戻った小澤社長は、いきなりグループ9社の代表取締役に就任します。自動車教習所に整備工場、タクシー会社など、百数十名の従業員を抱える自動車関連会社は、いずれも業績が芳しくなく、経営体制そのものが老朽化していると感じたそうです。
旧態然とした経営を立て直し、成長事業へ転換するため、最初に着手したのが人員の刷新でした。
「古参の方には退いていただき、幹部社員を総入れ替え。業績不振の事業は数字的な目標を課して経営状況を改善。不採算部門は売却して、負債を整理していきました。経営に関しては誰にも何も教わっていませんが、幸いにして公認会計士の勉強をしていたので、数字から経営状況をみることができました」

客観的に数字だけで判断していく小澤社長のやり方に、当初は反発もあったといいます。「社員はもちろん取引先も目上の方ばかりなので、話をしていても見えない規制線を張られているような感じはありました」。
会社を引き継いで3年が経ち、業績も徐々に回復しはじめた頃、小澤社長は地域住民からの要請を受けて、釜石市内の一部地域における買い物の不便を解消するため、スーパー事業を立ち上げます。
「グループ間の連携を生かして相乗効果を発揮できるような、新しい成長事業を生み出したいと考えてはいましたが、自動車関連業種とスーパー小売では全く違いますし、経営が難しいと言われている業種ですから、今思うと無謀でしたね」
先代の急死により事業を引き継いだ時のように、撤退したスーパーを受け継ぐ形で、休眠状態だった有限会社丸和を生かし、スーパー経営に乗り出した小澤社長。鮮魚に野菜、惣菜など商品をそろえ、店舗がオープンしたのは2011年3月10日。あの震災の前日でした。

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代表取締役社長 小澤 伸之助さん

スーパーからお弁当の宅配へ

東北地方の広い範囲を襲った東日本大震災。釜石市も地震による津波で甚大な被害を受けました。高台にあったスーパーは津波の被害を免れ、開店2日目で在庫もあったため、混乱のなか震災翌日まで営業を続けたそうです。その後しばらくは営業できずにいたものの、復旧作業にあたる人々にお弁当を作り届けてほしいと注文が舞い込み、スーパーは再び動き始めます。
「震災で町も何もかも変わってしまって、スーパーの事業計画もすべて覆されました。食事をする場所もないわけですから、手に入る材料でお弁当を作って届けたら、うちにも配達してほしいという注文が増えて、お弁当屋さんのような状態でした。スーパーどころではなくなってましたね」

1日50食から200食300食と、増え続ける注文に対応するため調理施設も整備。1日700食まで拡大した2016年、小澤社長は有限会社丸和の事業をスーパーからお弁当の宅配に一本化することを決意します。
「もともとスーパーは利益率が低く、多店舗展開して初めて成立する事業です。1店舗だけで利益を上げるのは非常に難しい。ムリだなと思いました。でも、スーパーをしていなければ、今の宅配弁当事業にはつながらなかったわけですからね」

宅配弁当事業は震災からの4年間で業績を伸ばし続けます。しかし届け先の多くはいずれこの土地を離れていく復興関連事業者です。人口減少による需要の落ち込みなど、近く直面するであろう課題に備えなければなりません。同じ課題を抱える地域の飲食店と連携して何かできないかと考えた小澤社長が、次なる一手として打ち出したのが『シェフズ弁当』プロジェクトでした。

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地域をつなぐ『シェフズ弁当』プロジェクト

地域の人にとって馴染みのある料理も、そこから一歩離れると案外知られていないものです。どんなにおいしいと評判のお店でも、その商圏は限られているのです。小澤社長が着目したのは、そこでした。
「自分の住む町にいながら他市町村にある有名店の料理を食べることができたら、利用する側にとっては新しい味との出会いになり、提供する側にとっては新しい利用者の獲得につながります。地域を超えて多くの人と接点を持てる新しい“食のプラットフォーム”を構築できると考えました」

考えるだけでは物事は動きません。プロジェクトの発案者である小澤社長は、自ら飲食店をまわり宅配用の弁当作りを依頼。お弁当の内容や賞味期限、注文数や配送効率など、さまざまある問題をクリアしながら協力店を募り、5カ月の準備期間を経て2015年7月に釜石市と隣接する大船渡市の13店舗からスタートします。
宅配で提供するお弁当は、基本的に飲食店が調理し丸和が配達を代行するものと、各店の料理人監修のもと材料とレシピの提供を受けて丸和が調理するものがあり、メニューも400円のヘルシー弁当から3,000円を超える特製オードブルまで多彩にラインナップ。職場や自宅へ1個から届けてくれるのが魅力です。

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釜石・大船渡市に続き半年後の2016年3月には、29店舗の加盟を集め『シェフズ弁当 盛岡版』がスタート。宅配に加えて盛岡駅フェザン店に店舗を構え、対面販売も始めています。着実に業績を伸ばし、スピード感をもってビジネス展開を続ける小澤社長ですが、「事業としてはまだまだこれからです。シェフズ弁当がビジネスモデルとして確立されれば、県内を離れ他の地域に拠点をつくることもできます。次は仙台で展開したいのですが、その前にまずは盛岡の体制を固めたいと思っています。そうでなければ、県外に広げてもよい結果は得られませんからね」

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新しい食のプラットフォームを釜石から広域展開へ

震災後の収益難をいかに克服するかという課題解決から始まった『シェフズ弁当』。現在、岩手県内3市で40店舗ほどの加盟を集めていますが、簡単に賛同を得ているわけではないと言います。
「飲食店さんにとってもメリットがあると信じて、これまで100店舗以上に声をかけてきましたが、実際に話がまとまるのは2~3割です。これまでにないビジネスモデルですから、未知のものに対する抵抗感もあって、簡単には理解してもらえないのが現実です。ただ、加盟する飲食店が増えれば、信頼も高まっていくでしょうし、『このお店のお弁当もあるんだ、食べてみたい』と利用者が増えれば、飲食店さんも前向きに考えてくれるようになるでしょう。相乗効果ですね。ただ、今はまだうまく軌道にのっていないので、それをいかに動かしていくかがこれからの課題です」

地方ならではの不便さもあり、解決すべき課題は山積みであるとしながらも、それ以上に手ごたえや面白さを感じると小澤社長。
「大都市の大企業では自分が中心となってビジネスを動かすまでには、それなりの年数が必要ですし、実際にそれができるのは一握りの人間です。地方では私自身がそうであるように、営業も販売もマーケティングも何でもしなければなりません。自分自身が心臓となって会社を動かしていけるのが地方ビジネスの醍醐味ではないでしょうか。『シェフズ弁当』に関して言えば、作っている人と食べる人、関わる人の顔が見えるので反応もダイレクトにわかります。釜石郊外にあるカフェがシェフズ弁当に参加したことで、遠いところからも人が集まるようになり、新しいお客さまが増えたと喜ぶ声を聞けたときなどは、間違ってなかったと逆に力をもらえました」

地方では県庁所在地のような中核都市を除き、人口減少は避けられない問題です。人が減ると商売が成り立たなくなり、必然的に飲食店などの数も減ってしまう。結果、そこに暮らす人の「食」が失われてしまいます。商圏を越えて展開できる『シェフズ弁当』なら、そうした状況を助け、地域活性化の新しいビジネスモデルになれるはず。そのためにも、今は一軒でも多くの協力店を集め信頼性を高めていきたいのだと、小澤社長はプロジェクト推進への思いを深めています。

釜石市ではオープンシティ戦略により外からの人材を受け入れ、ローカルベンチャー起業の育成も推進。志を一つにする人々が情報交換し交流を深めることのできるコミュニティの場もできつつあるといいます。小澤社長もこうした人々と横のつながりを持つことで、地域の特産を生かした新商品の開発も計画中。
「定期的に集まって話し合いの場を設けているので、『シェフズ弁当』の強みになる商品が増えていくのではないかと期待しています」

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配達をメインにしながら駅での対面販売も行い、フードアドバイザーの監修で栄養面に配慮した「ご褒美弁当」を開発。
「『シェフズ弁当』の最適な販売方法、商品のラインナップ、トライ&エラーを繰り返しながらビジネスプラットフォームとしての精度を高めています」
盛岡で一定の成果を上げることができれば、次は仙台。小澤社長の眼差しは次なる目標に向けられていました。

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有限会社丸和 代表取締役社長

小澤 伸之助さん

1976年、岩手県釜石市出身。大学卒業後、家業の自動車教習所で総務経理業務に従事。2004年、公認会計士を目指し大阪へ。2006年一次試験・二次試験に数科目合格するも、翌年に先代急逝により事業を継承。(株)小澤商店(不動産賃貸業他)をはじめ、(株)釜石自動車学校などグループ各社の代表取締役に就任。2011年、休眠会社であった(有)丸和にてスーパーマーケット事業を展開。同年3月東日本大震災発生。2015年(有)丸和にて『シェフズ弁当』事業を立ち上げる。

有限会社丸和

地域の飲食店や事業者の素材・味のお弁当プラットフォームを形成し、地域資源とより多くの人をつなぐ事業を展開しています。

住所
岩手県釜石市大町1丁目10番5号
設立
1984年6月
従業員数
30名(内正社員5名)
資本金
5,000,000円

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