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国家戦略特区で見る地方創生の現在地/地域活性機構 リレーコラム
亀和田 俊明
2018/10/26 (金) - 08:00

アベノミクスで掲げられた成長戦略の中核とされた政策で、産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成を促進する観点から規制改革を総合的かつ集中的に推進する取り組みが「国家戦略特区(国家戦略特別区域)」です。地域振興と国際競争力向上が目的の「国家戦略特区」の現状と課題から今後の地方創生について考えてみたいと思います。

地域振興と国際競争力向上が目的の成長戦略の中核

先日、国家戦略特区である愛知県では、2019年春にも外国人が家事をこなしてくれるサービスが始まると報道されました。外国人が家事を代行することで女性の活躍を促進させることが目的で同特区に限定して立ち上げられた事業です。同県は2015年3月に特区の認定を受けていますが、家事支援サービスを行う外国人の受け入れ態勢が基準を満たしたとして来春にもニチイ学館が事業のスタートを予定しているもので、中部地方では初めてのものになるといいます。

■国家戦略特区(国家戦略特別区域)

「国家戦略特区」は、“世界で一番ビジネスをしやすい環境”を作ることを目的に、地域や分野を限定することで、大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う規制改革制度です。平成25年度に関連する法律が制定され、平成26年5月に最初の区域が指定されました。

このように各特区で新たな事業が次々に始まっていますが、わが国では2003年に始まった規制改革を主な手段とする「構造改革特区」や2011年に導入された税制、財政、金融の支援も行う「総合特区」といった仕組みが存在していました。これら従来の特区は自治体や団体から計画を国に提案するというボトムアップ型の規制改革の取り組みでしたが、国家戦略特区は総理・内閣が主体的に関わって岩盤規制を突破するトップダウン型を指向しているのが特徴です。

地域を限定した規制緩和や税制優遇で民間投資を促し、経済の活性化を目指す経済特別区域構想が国家戦略特区ですが、2013年12月に国家戦略特別区域法が成立し、医療や雇用など6分野の特区設置が認められ、2014年5月に東京圏、関西圏、沖縄県、新潟市、養父市、福岡市が指定されました。次いで特区の枠組みを地方創生にも活用する方針が掲げられ、2015年3月に仙北市、仙台市、愛知県、12月には広島県及び今治市、千葉市、北九州市が選ばれました。

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「国家戦略特別区域法」の概要(資料:内閣府資料より)

特区の認定に当たっては、指定された特区ごとに「国家戦略特別区域会議」を設置し、担当大臣や知事、市長など自治体の長、また総理大臣が選定する民間事業者ら三者が協議、同意の上で、「国家戦略特別区域計画」を作成し、作成した計画書を総理大臣が議長を務め、官房長官や国家戦略特区大臣、議員などで構成された「国家戦略特別区域諮問会議」の場でオープンな議論を行い、最終的には総理大臣のリーダーシップの下、意思決定を行うという枠組みです。

10区域が指定され規制改革メニューは11の対象分野へ

現在、国家戦略特区に指定されているのは、北から仙北市、仙台市、新潟市、東京圏(東京都内の9区・後に東京都全域へ拡大、神奈川県、千葉市、成田市)、愛知県、関西圏(大阪府、京都府、兵庫県)、養父市、広島県・今治市、福岡市・北九州市、沖縄県の10の区域が指定され、都市再生、創業、外国人材、観光、医療、介護、保育、雇用、教育、農林水産業、近未来技術など規制改革メニューは11の対象分野に広がっています。以下に3特区の取り組みを紹介します。

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国家戦略特区の指定区域(資料:内閣府ホームページより)

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(資料:内閣府資料より筆者作成)

■農地の流動化促進、企業による農地取得、自家用有償旅客運送事業の実施―養父市
特区の中でおおむね順調に事業が進んでいる養父市では,農業委員会と市の事務分担による農地の流動化促進、農業生産法人の要件緩和や企業による農地取得の特例といった規制改革を実践しています。さらに、歴史的建築物に関する旅館業法の特例により空き家となっていた養蚕住宅を旅館として再生するほか、高齢者等の雇用の安定に関する法律の特例によりシルバー人材センター会員の労働時間を拡大して経済活動に参加しやすい環境を整えたり、全国初の試みとして観光客も対象とした自家用有償旅客運送事業を始めるためNPO法人が設立されました。

■特例農業法人の設立、農家レストランの開設、農業分野での外国人受け入れ―新潟市
日本で唯一の「田園型政令市」の新潟市での規制緩和の代表的な例としては、ローソンにより展開されている全国初の「特例農業法人の設立」があります。また、農業者自らが農村地帯で地域の農産物を材料とした料理を提供する農家レストランの開設が可能になったほか、4月からは担い手不足を改善する狙いで農業支援外国人受け入れ事業の認定を受けています。特定機関としての基準を満たす受け入れ企業を介して、農業の経験があり、即戦力として活躍できる外国人農業人材を農業現場に派遣することが可能になり、外国人就農も解禁されました。

■スタートアップ法人減税、航空法の高さ規制の緩和、都市公園内保育所の特例―福岡市
福岡市では「グローバル創業・雇用創出特区」として、創業の支援と雇用の創出を掲げていますが、スタートアップ法人減税や外国人の創業活動を促進するため、在留資格(経営・管理)の取得要件を満たす見込みのある外国人の創業活動を特例的に認める「スタートアップビザ」の受付も開始しているほか、航空法の高さ規制に係る緩和など都市の活性化につながる規制改革案を実現させるとともに、「都市公園内保育所の特例」の活用などにより市民生活に直結した規制緩和にも取り組んでいます。

最先端技術を用いた「スーパーシティ」構想を推進へ

さて、国家戦略特区を一歩進めるものとして、自動走行や小型無人機(ドローン)といった近未来技術が注目されていますが、「規制のサンドボックス制度」では、これらの実証実験を特区内に地域限定型「サンドボックス」を設け、よりスムーズに、スピーディーに行えるよう安全性を確保しつつ、 手続きを抜本的に簡素化する仕組みを検討していくために監視・評価体制による事後チェックルールを徹底する代わりに事前規制は最小化されます。

「サンドボックス」は砂場を意味していますが、子どもが試行錯誤を繰り返しながら、自由に砂をいろいろな形にするように自治体や民間事業者が新たな商品・サービスを生み出すための近未来技術の実証実験を迅速に行えるよう、安全性に十分配慮した上で、事前規制や手続きを抜本的に見直すもので、現行法の規制を一時的に止めて特区内で新技術を実証できる制度で、スムーズな実験の実施を後押しするものです。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えて羽田空港周辺では、自動走行技術を活用した実証実験「サンドボックス」制度の構築が計画されているほか、千葉市ではドローンによる自立飛行配送の実証実験が行われています。国家戦略特区法の改正で導入が決まった「規制のサンドボックス制度」ですが、2018年度中にも自動走行やドローンなどを対象とした「特区版サンドボックス」が始動する見込みともいわれています。

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2017年12月に新聞に掲載された「国家戦略特区」の広告(資料:政府広報より)

また、政府は10月23日に開いた国家戦略特区諮問会議で、特区制度を活用した人工知能(AI)やビッグデータなど最先端技術を用いた都市づくり「スーパーシティ」構想を推進する方針を確認し、今月中に有識者懇談会を設置した上で11月下旬にも基本構想を取りまとめ、12月の未来投資会議で提示するといいます。同構想では、域内でのキャッシュレス決済、車の自動走行や遠隔教育など最先端技術の本格導入を目指すもので、必要な制度改正などについても議論される予定です。

事務局体制を再構築して特区のリスタートへ

国家戦略特区の設置から4年が経過しましたが、24事業が全国措置され、3事業が特区から全国展開へ、それらの中には都市公園内における保育所等設置の解禁や農業生産法人の経営多角化などがあります。国家戦略特区制度は地域を限定して規制改革が行われていますが、それぞれの特区で成果を上げた規制改革メニューについては、今まで以上に全国への展開を考えていくことも必要ではないでしょうか。

世界各国で実施されている規制・制度の緩和や税制優遇といった試みですが、成長戦略の重点的な政策分野においては、インバウンドのように数字で成果が上がったことが分かるものもありますが、国家戦略特区においては、56項目の規制改革が実現しているものの、特区によっては進捗が遅れている区域もあり、今少し時間がかかることでしょう。さらに、各特区においてさまざまな取り組みがスピーディーに進められることが期待されます。

地方自治体のWEBでは、それぞれの特区の強みや特徴を活かして、さらにビジネスのしやすい環境を整えることにつながるアイデアも募集されているほか、特区の措置の活用を希望する事業者も歓迎されています。国家戦略特区については、随時、提案が受け付けられていますし、年に2回(春と秋ごろ)には締め切りを設け集中的に規制改革事項を受け付ける「集中受付期間」が設けられています。地域の課題解決のための提案も望まれます。

何かと昨今、注目を集める国家戦略特区ですが、前述の国家戦略特区諮問会議にて、事務局体制を再構築して国家戦略特区を「リスタート」させることを決めたといいます。関係自治体との信頼関係の回復や事務局の体制刷新、意識改革などを進めるとしていますので、国家戦略特区の動向から目を離すことができませんが、地域振興と国際競争力の向上という本来の目的に再度向き合った規制改革が求められているのではないでしょうか。

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