IGNITE! エクストラステージ決定! IGNITE! Vol.11レポート
花岡 美和
2019/02/27 (水) - 17:00

長野県の八ヶ岳エリアに位置するコワーキングスペース「富士見 森のオフィス」にも3度目の冬が訪れました。
その森のオフィスが2018年度にもっとも力を入れたイベントは「IGNITE!」(イグナイト)です。「アイデアをカタチにする」というテーマに惹かれて集まった参加者は仕事も住んでいる場所も多種多様。月1回、トータル12回の長丁場ですが、回を重ねながら参加者同士でチームを組み、最終的にプロダクト系2チーム、イベント・エンタメ系4チームがプロトタイピングまで進みました。

今回レポートをお届けする11回目は、プロジェクト実現に向けたアクセラレーションの回。雑誌『ソトコト』の取材が入り、半年ぶりの参加だという東京からの二人組も参戦し、外の寒さとは裏腹に森のオフィスは熱気にあふれていました。

もともと12回の予定でスタートしたIGNITE!ですが、どのチームも思いのほかプロトタイピングに熱が入り、急遽エクストラステージの開催が決定しました。期間は2019年1月から3月までの3ヶ月間。実は、ここからが本番という展開になったのです。

“魅せる”プレゼンのヒントはクラウドファンディングにあり

次回はいよいよ、プロジェクト実現に向けた本番のプレゼンテーションです。プレゼン当日は外部からの一般観覧車を募るほか、多方面からのゲストが予定されているとのこと。その顔ぶれの豪華さに、参加者から思わず「スゴイ……」という声が漏れたほどです。
ゲストの詳細はレポートの最後にご紹介するとして、今回のプレゼンは、資金調達や創業支援、またはプロダクトの製品化など、プロジェクト実現に一歩も二歩も近づく可能性のある貴重なチャンスになることは間違いなさそうです。

そこで今回のIGNITE!は、プレゼンの「見せ方」と「魅せ方」がテーマとなりました。前半は各チームによる「(プレゼンにおける)価値の伝え方」の報告。後半は、ゲストスピーカーによるクラウドファンディングを活用したPRのレクチャー。そのあとは恒例のワイガヤへという流れでした。

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IGNITE!主催者であり、森のオフィスを運営するRoute Designの代表、津田賀央さん(左)
IGNITE!のファシリテーター、松井彩香さん(右)

PRにおけるメンター役として登壇されたのは、コワーキングスペース「CREEKS」(長野県長野市)の代表を務める古後理栄さん。CREEKSが携わっている長野県特化型クラウドファンディングサイト「Show Boat(ショーボート)」の成功事例を踏まえたレクチャーは、アクセレーションをかけていくうえで必要なPRの視点が凝縮された、内容の濃い時間となりました。

*コワーキングスペース「CREEKS」https://creeks-coworking.com/

創業支援の勉強会で本格的なプレゼンデビュー!

まずは「価値の伝え方」の報告から。価値を伝えるとはつまり、購買欲を喚起できるかということです。各チーム、「誰に」「何を」「どうやって」伝えるかに焦点を絞った報告となりました。
売るための価値はプロトタイピングの段階から発想していく必要があります。「誰に」「何を」は今までも考えてきたことですが、ここにきて「どうやって」の部分が一気に加速したチームがいくつかありました。

例えば「Alexa行政」チーム。富士見町で活用している有線放送電話の替わりにアマゾンのAIスピーカー「Alexa」(アレクサ)を使い、地域行事、防災情報、農事情報、行政情報など、地域に密着した情報を配信していこうというプロジェクトです。また、手続きが煩雑な行政手続を、AIスピーカーの特徴である双方向のやり取りをいかしてシンプル化する構想もあり、特に子育て世代や高齢者に向けたサービスに力を入れていきたいそうです。

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Alexa行政チーム。富士見町行政に向けた積極的なアピールにより、徐々に実現の可能性が高まってきた

Alexaのカスタマイズを進める一方で、早い段階から行政へのアプローチをかけてきた努力が、徐々に実を結んできました。現在は、定期的に富士見町役場を訪れて担当者のヒヤリングを行っており、そのほか信州創業応援プラットフォーム勉強会で本格的なプレゼンデビューも果たしました。県庁や銀行の関係者のほか、各市町村の人たちも参加していたということで、「できる限りのアピールをしてきました」とのこと。勉強会の様子は地元紙でも取り上げられました。

今後の展開としては、アマゾンのイベントやアレクサ担当者への売り込み、ペイドパブリシティの利用も視野に入れているそうです。

プロトイベントで想定外の嬉しい誤算が続出

手作りのしおりをツールにしたコミュニケーションを構築中の「しおりやさん」チーム。価値を伝えるにはイベントをしたほうが早いということで、実際にミニイベントを開催しました。

参加者は、小さなお子さんを連れた親子5組。まず、1枚の紙に3人一組で絵を描いて回し、ひとつの絵を仕上げることで自己紹介的な雰囲気を作りました。次にメインとなるしおり作りへ。このしおりは参加者同士で交換して、各自が思い出として持ち帰ったそうです。

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参加者からの「楽しかった!」という感想に、ひとまずホッとしたというチームリーダーの蜂谷さん。企画の段階では価値の設定に戸惑っていたようですが、実際にイベントをやってみると、参加者の反応によって自分たちでは思いつかなかった価値に気づき、想定外の嬉しい誤算が続出だったそうです。
アドリブで何とか切り抜けるというヒヤヒヤした経験も、かえって楽しい発見と自信につながったと報告がありました。

プロトイベントでは、「しおりやさん」のタイトルに「作る 交換する 発見する」というコピーが加えられていました。価値の伝え方という観点で言えば、このコピーによってしおりやさんの全体像がぐっとわかりやすくなったという印象です。

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アグリレコーダーチーム(左)改良を重ねた試作品(右)
家庭菜園の定点観察からスタートして、企画を練りながらプロ寄りのプロダクトにシフト。若手就農者をターゲットに、ドライブレコーダーの農業版で今まで見えなかったことの視覚化を目指す。「熟練従事者が経験とカンでやってきたことを、若手が引き継いでいくときのツールとして役立てばうれしいです」

プロジェクトは山登りと同じ 重要なことはゴールと戦略

後半は共感を呼ぶPRプランについて。CREEKSの古後さんのレクチャーは、「事業やプロジェクトを起こすのは山登りに例えられます」という話から始まりました。
山登りは頂上のゴールを目指して登っていきます。登り方は何通りもあり、登山のルートに正解はありません。けれど、どのルートを登るにしても戦略は不可欠です。
プロジェクトにおいても重要なのはゴールと戦略。この2つは常にワンセットであることが強調されました。

ゴールと戦略を考える上で必要なことは、ターゲットのニーズを見極めていくこと。社会的な要因や顧客目線を整理した上でニーズを深掘りしていかないと、表面的なところで踊られてしまう可能性があります。
誰に、何を、どう伝えるか。価値の伝え方という広報の戦略を立てるときの参考になるのがクラウドファンディングの成功事例です。
クラウドファンディングは、プロダクト型、コンテンツ・エンタメ型、社会貢献型に大別されます。どの場合も資金調達を目的にしたクラウドファンディングが一般的ですが、資金調達のほか、テストマーケティング、ファンづくり、または広報としてクラウドファンディングを活用することはめずらしくないそうです。

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想い出の木チーム(左)想い出の木で作った器(右)
思い入れのある木を処分しなければならないとき、その木を違うカタチで活用した新たな思い出作を提案する。プロトイベントとして木工のワークショップを開催。参加者の想い出の木は器にカタチを変えた。クラフト展への出店も計画中。

クラウドファンディングを活用したマーケティングとコミュニティ作り

マーケティングやファンづくりの一例として、Show Boatで実際に取り扱った社会貢献型のケースが紹介されました。
「文楽という伝統芸能を子どもたちに伝えるため、軽井沢で文楽公演を成功させたい!」というプロジェクトが設定した目標金額は20万円。実際に文楽を上映するには千万単位のお金がかかるので、20万円で文楽を上映できるわけではありません。
クラウドファンディングを活用した目的は、新規顧客の開拓とマーケティング。そのために完成度の高いプロジェクトページを作り、さらに目標金額を低く設定して成功確率を上げたそうです。

もうひとつ、コンテンツ・エンタメ型の一例として、古後さん自身のプロジェクト「tsunagno」(つなぐの)の経緯も披露されました。
tsunagnoは、若い人たちが大人と出会って色々な経験をする場所。プロジェクトページでは、「tsunagnoを作るための資金を応援してください」というストーリーで、場所作りの資金集めをゴールに設定したそうです。
しかし、企画側が最終ゴールに定めていたのは、若い人たちが大人と触れ合うコミュニティ作りと、その継続でした。

「つまり、大人に働きかけたかった」と古後さんは言います。資金調達はもちろん、プロジェクト自体を広く知ってもらい、一緒に運営してくれる協力者を募りたい。そのためにクラウドファンディングを活用したのです。

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15才が色々な大人と出会う場所をつくりたいというL15チーム。「tsunagno」と通じるものがあり、メンバーは古後さんの話に熱心に耳を傾けていた。

「核となる思い」と「継続した発信」

クラウドファンディングの場合、プロジェクトの達成と実現に求められることは、社会性の高いストーリー作りだそうです。
話題になる独自性と社会貢献的な要素。その世界観を文章と写真できちんと表現できていること。多くの人にシェアしてもらうには、何をしたいのかが明確に伝わることが最優先で、それらをしっかり伝えていくには発信力が不可欠です。
ここまでは素人でも想像できますが、「さらには、継続した発信こそがプロジェクト成功の明暗を分ける」というレクチャーに、一同ハッとしました。

同じことを何度も発信するのは自分も飽きてくる。見ている人も嫌だと思うかもしれない。そんな気持ちから、実際は継続的な発信がなかなかできないそうです。
それに対する古後さんのアドバイスは、「SNSは日々流れて行ってしまう情報。人は10回くらい見てやっと1回クリックする。そのくらいに思っておけばいい」。
クラウドファンディング運営者であり、実際にクラウドファンディングを活用した経験者ならではの実践的な意見は、本番のプレゼンに向けた参加者の心に深く響いたようでした。

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プロダクトであれば製品が魅力的であることは大前提です。イベントやエンタメであれば、いかに応援してもらえるか。いずれにしてもプロジェクトの成功は、核となる自分たちの思いをベースに、誰に、何を、どう伝えるかにかかっていることが、古後さんのレクチャーを通じて再確認できたようです。

次回は、一般観覧者やゲストに向けた本番のプレゼンテーション。
予定されているゲストは、全国的に注目されている野外保育園の主催者、ドコモの社内ベンチャーやスタートアップの担当者。行政関係者、IGNITE!のゲストスピーカーとしても登壇された、プロダクトやPRのプロである電通やソニーの方々など。
この多彩な顔ぶれにどうアピールしていくか。最終プレゼンは、今まで以上に熱気あふれたIGNITE!になりそうです!

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