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誰が地方に転職しているのか、受け入れ企業は何をすべきか
首都大学東京大学院 社会科学研究科 准教授 西村 孝史(にしむら たかし)
2017/11/17 (金) - 17:00

日本では、地方への人材の分散、地域創生など人材を還流する動きを政府が後押ししているものの、首都圏から転居を伴う地方への転職には抵抗感を持つ人が多い。しかし、他方で大都市圏から地方へ転職している人達も確実に存在しています。このコラムでは、どんな人が首都圏から地方へ転職しているのかを考えます。

1. 地方への人材還流の動きと心理的抵抗感

日本では、政府の後押しもあってか首都圏への一極集中から地方への人材の分散、地域創生など人材を還流しようとする動きが盛んです。経営学や経済学から考えると、首都圏から地方への人材の還流は、転職行動や労働移動の問題として扱われます。
労働移動という観点で見たとき、難しいのは首都圏から転居を伴う地方への転職です。なぜなら首都圏の方が、地方よりも規模的にも、ブランド的にも、大企業が多く存在し、給与水準も高く、労働移動が容易であると思われているため、積極的に首都圏から地方に転職しようというインセンティブが小さいことが予想されるからです。しかし、他方で大都市圏から地方へ転職している人達も確実に存在しています。そこでこのコラムでは、既存のデータセットを用いて大都市圏から地方へ転職を果たした人達に注目し、彼(女)らが何を考え、何を求めて転職したのかを考えます。なお、ここで言う大都市圏とは、東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県に加え、愛知、大阪、福岡を指し、それ以外を地方とします。

2. 地方に転職する人を捉える考え方とデータ

分析には、みずほ情報総合研究所が2014年に実施したアンケート調査を用います。この調査は、調査時点からさかのぼって3年以内の間に正社員への転職経験がある55歳未満の労働者を対象としている調査で、前職の離職理由や現職への入職経路、転職先における仕事や処遇に関する評価について尋ねています。さらに転職先の企業や職場で行われた社会化施策(人事管理施策や職場の支援)も尋ねているのが本調査の特徴です。今回は、(1)前職を自己都合で離職した者で、(2)前職も正社員である者を分析の対象としています。なぜなら大都市圏から積極的に転居を伴う転職をしたのはどのような者かを把握することを目的としており、且つ前職も現職も正社員であることで、前職と現職の企業や職場の比較を回答者がより明確に行っていると考えられるからです。言い換えれば、転職の効果と就業形態の違いを弁別するために前職も正社員であるように設定しています。

3. 4つのタイプ

最初に、サンプルのうち転職先が地方か首都圏か、転居を伴う転職か否かをクロス集計で見てみましょう(表1)。表1を見ると、全体の11.5%にあたる120名が転居を伴う転職として地方に移動しているほか、依然として多数を占めるのは大都市圏内での移動です。ただし、設問上、前職の勤務地は分からないので、コラムで注目する転居を伴う地方への労働移動者(n=120名)の中には、同じ地域内だけれども転居をした者や地方から別の地方への移動者も含まれていることに注意が必要です。

表1 転職先の勤務地と転居の有無のクロス集計

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1) χ2乗検定で0.1%水準で有意

表1の4つのセルを用いてタイプ分けをしたとき、タイプごとに属性に違いがあるのかを見てみましょう(表2)。表2から平均年齢や男女比に大きな違いはありませんが、特徴的なのは、介護の有無が地方在住者と大都市圏在住者では異なる点です(χ2乗検定で5%有意)。つまり、地方で働く要因の一つとして、親族の介護が重要な要因として挙げられるかもしれません。

表2 転職タイプ別に見た属性

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1)配偶者の割合は、「配偶者がおり、共稼ぎである」「配偶者はいるが、共働きではない」の割合の合計  2)介護の有無の割合は、「同居で介護している」「同居以外で介護している」の割合の合計

次にタイプ別に離職理由を見てみると(表3)、全体傾向として仕事内容に関する不満が41.0%と最も多く、次いで賃金の不満が29.3%、会社の将来への不安が27.8%となっています。個別のタイプで見た場合も全体傾向と類似した傾向が見られますが、タイプ1は、賃金の不満よりも賃金以外の労働条件の不満がタイプ1の中で2番目に多く、全体傾向の第2位であった賃金の低さは、他の4タイプ中最も少ない(21.7%)状況です。タイプ2は、仕事の内容の不満が4タイプで最も高く(44.6%)、賃金の不満も高くなっています(33.1%)。また他のタイプと比べて顕著なのは、結婚・出産・育児に伴う大都市圏への転職が多いことです(10.8%)。タイプ1とタイプ2で共通するのは、親等の介護のため、と答えた割合が10%弱とタイプ3やタイプ4と比べて多い点です。タイプ3は、全体傾向と同様の傾向ですが、全体の平均と比べると不満の程度は低くなっています。タイプ4は、労働条件(賃金以外)と賃金の不満の2つがともに29.8%であることに加え、能力・実績が正当に評価されないことも28.0%であることから処遇面への不満が強い様子が窺えます。そのことから処遇面の改善を求めて首都圏の企業を転職していることが予想されます。

表3 タイプ別に見た転職理由

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1)複数回答  2)各タイプ上位3位までを網掛け

また、転職時に最も重要視したものをタイプ別にみると、地方へ転居を伴う転職をしている人は、何らかの形で就業の地域とかかわりを持ち、初めから地域ありきで転職活動していることが分かります。反対に大都市圏に出て転職した人は、会社の将来性を他のタイプよりも重要視しています。タイプ3とタイプ4は、タイプ1とタイプ2に比べて仕事内容を決定的に重要だと捉えている様子が窺えます。

表4 転職時に最も重視したもの(各タイプ上位3位まで)

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1)設問では、上記のほかにも職位や労働時間、転勤の有無など合計34項目について尋ねている

4. 転職後の変化

いずれのタイプであっても、転職先での仕事は拡大しているのでしょうか、それとも転職前と変わらないのでしょうか。仕事を通じて個人が成長するためには仕事内容がより大きくなったり、権限が大きくなったりなど質的に異なることが望ましいとされています。転職後の仕事の変化についてみたのが表5です。まず、2013年の年収とは、1点:100万円未満~12点:1、500万円以上の12点尺度で、得点が高いほど年収が高いことを意味します。これを見ると平均点が5点から6点台であることから年収に換算するとおおよそ500万円から700万円前後ということになります。このことからタイプ3が、タイプ2とタイプ3の大都市圏の転職者よりも有意に年収が低いことが分かりますが、タイプ1と大都市圏の転職者(タイプ2とタイプ 4)との統計的な有意差はみられませんでした。ただし、次の転職後の賃金の変化についてみると、タイプ1だけが2点台です。賃金の変化を含む以降の設問の選択肢は、すべて1点:増加、2点:変化なし、3点:減少を意味する選択肢ですから、点数が低い方が仕事や求められる能力が拡大していることを意味します。つまり、賃金の変化を見ると、地方へ転職をした人は、賃金的にはあまり変化がないと言えそうです。このほかタイプ間で統計的に有意差が見られるのは、仕事内容と仕事に必要とされる知識・能力ですが、最も数値が高いタイプ2(大都市圏への転職者)とタイプ1との有意差は見られませんでした。

表5 転職後の仕事の変化

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***:1%水準で有意、 ✝:10%水準で有意

5. 企業が転職者にすべきこと

転職をすると仕事の難易度や仕事の範囲などが拡大していることが明らかになりましたが、彼(女)らが転職に満足しているのか否かを企業側の視点から考察しましょう。表6は、転職に対する満足度を従属変数としてタイプ別にサンプルを分けて分析したものです。転職満足度は4点尺度で、4点が満足を示し、1点が不満を示します。
転職満足度に影響を与える要因として性別(男性=1、女性=2)、年齢(実数)、勤務先での勤続年数、大卒以上ダミー(大卒以上=1)、企業規模300名以上ダミー(300名以上=1)、課長職以上ダミー(課長職以上=1)、年収水準が投入されています。
また、企業側の要因として大きく3つの施策の導入数を用いています。1つは、転職者に対する教育訓練施策です。これは、転職先で入社1年以内で受講した教育訓練の総和であり、具体的には「一定期間の計画的なOJT」「企業理念に関する研修」「業界の理解のための研修」「専門知識に関する研修」「社内の事務手続き・ルールに関する研修」「社内のITシステム(イントラネット等)に関する研修」「今後のキャリア設計に関する研修」の7項目です。2つ目は、職場の社会化施策であり、配属された職場で行われたイベント数を示す変数です。具体的には、「入社時のオリエンテーション」「職場の受け入れ支援担当者によるサポート」「職場マネジャーとの事前面談」「中途採用者同士の交流会」「入職一定期間後のフォロー面談」「先輩中途採用者の紹介」「中途採用者の社内への紹介(社内広報を通じた紹介等)」「社内の職場見学会」の8項目です。3つ目は、職場の上司や同僚らによる支援です。具体的には、「社内のイントラネット等の仕組みや社内手続きについて教えてくれた」「歓迎会・懇親会を設けてくれた」「社内の関係する部署等へ挨拶回りに同行してくれた」「社内の備品等の使い方について教えてくれた」「社内の関係部署等におけるキーパーソンについて教えてくれた」「期待される役割や仕事について説明してくれた」「入職後の一定期間に経験すべき仕事の順序を示してくれた」「参加すべき社内の研修について指示やアドバイスをしてくれた」「仕事に役に立つ本や通信講座等についてアドバイスをしてくれた」「受け入れにあたり、対応が十分でない事柄について説明を受けた」の10項目です。
表6からどのタイプであっても、上司同僚の支援施策が充実していると転職の満足度が高まることが分かります。反対に転職先企業が提供する教育訓練は直接的には転職満足度を高めません。また、タイプ4の大都市在住者の転職者にとっては歓迎会や中途採用者との交流会などの職場の社会化施策が正の影響を与えています。ただ、追加分析として上司と同僚の支援施策の実施している数の平均をタイプ別にみたところ、タイプ1は、2.72施策、タイプ2は、2.67施策、タイプ3は、2.64施策、タイプ4は、2.66施策と、タイプ別での施策実施数に差異はなく、且つどのタイプも10施策中、2つから3つ程度の施策しか実施していません。

表6 タイプ別に見た転職満足度の回帰分析
    転職への満足度(4点:満足している〜1点:不満である)

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*** p<.01 **p<.05 ✝p<.10

6. 企業が優秀な人材を確保・定着するために:上司・同僚の支援の充実

本稿では、セルフターン人材(タイプ1)がどのような人材であるのかをクロス集計から検討するとともに彼(女)らを受け入れる企業側にいかなる施策が必要なのかを簡単な分析を用いて概観しました。分析結果からは、何からの形で転職先の地域とかかわりのあった人や親等の介護が必要な人が地方への転居を伴う転職を果たしていることが明らかになりました。ただし、彼らの転職先は決して年収ダウンやキャリアの範囲が限定されるものではなく、仕事の範囲や仕事内容、仕事上の責任などを大都市圏で転職を果たした人たちと比べても差がありません。
また、転職者を受け入れる企業側にとっては、受け入れ職場の上司や同僚によるスムーズな社会化が、転職者の転職満足度を高めることも明らかになりました。この結果は、同社への継続意思を従属変数とした場合でも同じであり、周囲のサポートの重要性を改めて示唆するものです。しかし、転職先の上司や同僚の支援が重要であるにもかかわらず、残念ながら実施施策数の平均値は、どのタイプも10施策(10点満点)中、3点を切っており、どの企業もあまり重要視していません。統計を見る限り、実施されている内容は、歓迎会の実施、イントラネットや社内手続きの説明、求められる役割の説明、などであり、一通りのことを終えると、企業は転職者を即戦力として現場に放り出されてしまいます。しかし、地方の企業が積極的に全国から中途採用者を募るのであれば、こうした定着のための施策にも目配せをする必要があるでしょう。なぜなら特にタイプ1の場合、地方への転居を伴う移動の中で、職場に溶け込むよりも前に即戦力としての手腕が求められるとなると、本人にとっては極めてストレスの高い状況になるからです。こうした社会化の失敗は、転職者のスムーズな立ち上がりを躓かせるだけでなく、転職者を採用するのに要したコストも無駄にしてしまい、企業側にとってはトラウマになってしまいます。
多くの企業が人材を獲得する採用部分には外部の企業や伝手を用いて躍起になっていますが、今回の結果が示すことは「釣った魚に餌をあげない」企業があまりにも多いことです。「人的資源の3B」という言葉があります。これは、Buy(買う=中途採用)、Build(つくる=内部育成)、Borrow(借りる=派遣労働者や請負等の外部人材の活用)の頭文字をとったものです。人材マネジメントは採用して彼らを配置・育成して処遇するという一連のサイクルが連動しています。自社の右腕人材を外部からBuyするのであれば、入社後の溶け込み方にも気を遣う必要があるのです。

2次分析にあたり、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブから「今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する調査(厚生労働省 職業安定局 雇用政策課)」の個票データの提供を受けました。ここに記して感謝申し上げます。もちろん本コラムにおける内容の責任は、筆者に帰するものです。

西村孝史氏

首都大学東京大学院 社会科学研究科 准教授 西村 孝史(にしむら たかし)

株式会社日立製作所にて人事に従事後、大学院に進学。2008年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。商学博士(一橋大学)。徳島大学、東京理科大学を経て2013年より現職。専門は、人的資源管理論、組織行動論。主な研究テーマは、ソーシャル・キャピタル、戦略人材マネジメント、経営人材の育成など。最近では「『職場』機能の再認識と現場人事」(『人事の潮流』所収, 経団連出版編・2015年)、「ミドルマネージャーの戦略的役割」『一橋ビジネスレビュー』(2016年、西岡由美との共著)などがある。また、厚生労働省委託の委員会委員や人事院、総務省の委員の他、企業研修の講師・コーディネーターも多数行っている。

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