地方創生人材に関する探索的研究-大企業の事業部長と地方の経営幹部との比較-

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地方創生人材に関する探索的研究-大企業の事業部長と地方の経営幹部との比較-
首都大学東京大学院 社会科学研究科 准教授 西村 孝史(にしむら たかし)
2017/11/24 (金) - 17:00
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コラムでは、首都圏の大企業勤めから中小企業の経営幹部として転職した人材(本稿では、地方創生人材と呼ぶ)について、求められる資質が異なるのか、現在のポジションに就くまでに何を学んでいるのかを大企業の事業部長と比較をします。その結果、統計的な有意差が認められたのは、2項目のみであり、大企業の事業部長も地方中小企業の幹部も求められる資質は変わらないことを主張します。

1. 経営人材育成:リーダー開発論

経営人材の育成はすでに多くの企業で問題とされています。とくにグローバル化が進む中で世界で競争していくためには既存のビジネスを回すいわゆるゼネラリストタイプの人材だけでなく、さらに新しいビジネスを立ち上げることのできる人材、これまでの既存ビジネスの再構築ができるような人材が求められています。こうした経営人材の研究について基礎となる研究枠組みがCenter for Creative Leadership(創造的リーダーシップ研究所;以下CCL)によるリーダー開発論です(McCall,et.al,1988; McCall, 1999)。CCLでは、米国のエグゼクティブクラス191名にインタビューを行い、リーダーとして「一皮むけた」経験を語ってもらう調査を行いました。その結果、彼らのキャリアから616の経験(イベント)と1547の教訓(レッスン)を見出し、更に概念的に16種類の経験と32種類の教訓に集約して両者を軸としてマトリクスを作成しています。CCLでは、このマトリクスからどのような経験から何が学べるのかを分析しており、①リーダーシップは、業務上の出来事、即ち仕事経験を通じて育成される。②リーダーに必要な素質として一番重要なのは、そうした経験から適切な教訓を学べる力である。③リーダーシップを育成する経験は、適切な時期に適切な形で与えなければならない、という3点を基本的な主張としています(McCall,et.al,1988; McCall, 1999; リクルートワークス研究所, 2001)。
日本では、金井・古野(2001)が、大企業の経営幹部とミドル層を対象に彼等がリーダーシップを習得したいわゆる「一皮むける」経験をインタビューし、29種類のイベントと14種類のレッスンとしてまとめています。また、守島・島貫・西村・坂爪(2006)が、大規模な質問票調査を実施し、200名の事業部長にイベントとレッスンについて尋ねており、その結果、既存研究に加えて、関連会社への出向経験を通じて企業経営を行う事業経営の経験と本社の企画部門、財務部門、あるいは子会社の副社長経験といったNo.2の経験という2つのイベントを見出しています。

2. 地方創生人材と事業部長の比較

地方創生人材がどのような資質が求められるのかを明らかにするために本コラムでは、守島・島貫・西村・坂爪(2006)が実施した事業部長のデータと日本人材機構がインタビューの際に実施したアンケートを比較します。守島ら(2006)の調査は、一橋大学日本企業研究センターが主催する研究コンソーシアムに参加している日本の主要企業16社の事業部長クラス200名を対象とした質問紙調査(「事業経営者のキャリア調査プロジェクト」)です。調査票は2005年3月に配布され、同年5~8月にかけて回収されたもので、我が国の事業部長クラスのキャリア調査としては、かなり大規模な調査です。
調査対象である事業部長クラスは、個別の事業ユニット(ビジネスユニット、以下BUと略す)の長として、一定の権限と責任を有しています。但し、本調査では、BU長の範囲をやや広く捉えて、当該企業の中で事業部長と同等と見なされる組織ユニットの長、例えば、経営企画・人事・財務・経理等のスタッフ部門の組織長も含まれています。
コラムでは、地方創生人材(地方企業の幹部人材)とBU長とを比較するために、守島ら(2005)で用いられた、①組織を背負う責任感、②困難な状況で決断する力、③総合的な経営判断をする力、④大きなビジョンを描く力、⑤変革マインド、⑥他人を活かして事業を推進する力、⑦バイタリティや精神的・肉体的タフさ、⑧リーダーとしての価値観、⑨グローバルな視野や考え方、⑩マネジメントの原理・原則、⑪業務に関する専門知識やノウハウ、という11項目のレッスンを使用しました。これらの項目は、経営幹部や事業経営者に必要な能力・資質、考え方等を論じた既存研究(McCall et.al,1988; 伊丹, 2004; 三品, 2004など)をもとに作成されており、一定の妥当性があると考えられるからです。

3. BU長の仕事と地方の経営幹部で求められる資質の違い

図1は、BU長(n=200、平均年齢=54.6歳)と地方創生人材(n=11、平均年齢41.6歳)について、BU長には、「BU長に求められる要件として以下の項目がどの程度重要か否か」を4点尺度(絶対不可欠=4点、重要=3点、あれば望ましい=2点、重要でない=1点)で尋ね、地方創生人材については、「現在の仕事について求められる要件として以下の項目がどの程度重要か否か」をBU長と同じ4点尺度で尋ねています 。地方創生人材で最も重要な資質は、「困難な状況で決断する力」(3.55)と「バイタリティや精神的・肉体的タフさ」(3.55)です。それに対して、BU長で重要視されている資質は、「組織を背負う責任感」(3.79)と「困難な状況で決断する力」(3.76)となっています。
BUに求められる資質と地方企業の経営幹部として求められる資質として統計的に有意差が見られた項目として、「他人を活かして事業を推進する力」「組織を背負う責任感」「グローバルな視野や考え方」の3項目でした。言い換えると、統計的に有意差が見られなかった8項目は、BU長としても、地方の経営幹部としても必要な資質です。ただし、統計的に有意差が見られた組織を背負う責任感は、以下の語りのように地方の経営幹部でも経験可能です。

いろいろな判断をしなければいけないし、対外的に、この会社は本当に地域に根付いている会社で、この会社の選択が地域の人に迷惑をかけたり喜ばれたり、そういうインパクトが大きい会社なのですが、とても責任感のある中で、そういうことをさせてもらえるというのは、よかったですね。(中略)それ(=前職※筆者注)とは違う責任感とか影響を感じながら仕事をする、というところが大きいです。(福島交通 城下氏)

「他人を活かして事業を推進する力」「組織を背負う意識」が共にBU長よりも低いのは,組織の規模によるところが大きいと推察されます。また,地方の中小企業の場合,取締役と言えども,自分で手を動かさなければならないことが多いからでしょう。

管理系は全部私が見ている。ただスタッフは管理部に3名しかいないので,自分もちゃんと手を動かしてやらなきゃいけないし,規定ひとつ作るにしてもつくれない。いちから作らなきゃならないですね。(小鍛冶組 山中氏)

例えば,後継者不足の問題でいうと,地域に新しい人たちに入ってきて食べていける農業,そのモデルを作りたいというのがあります。それをするためには,まずは自分でやってみないと説得力はないというのがあって農業者として成功して,その次の展開としてそのノウハウを横展開していければと思っています。(ホールアース 平野氏)

図1 BU長の仕事で必要な資質と地方の経営幹部として求められる資質の比較(重要度)

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*0.05 < p < 0.10,**0.01 < p < 0.05,***p < 0.01

4. これまでの仕事経験で身につけたもの

次に、現在の業務に役立っていると思われるイベントからBU長と地方の経営幹部が何を習得しているのかを比較してみましょう(図2)。BU長については最大5つ、地方創生人材については最大2つの業務上の経験を記載してもらい、それぞれの経験から図2に示されている内容をどの程度習得しているのかを選択してもらっています。得点は5点尺度で1点(全く習得せず)~5点(非常に多くを習得)です。BU長は674のイベントが抽出され、1人あたり平均3.37個、地方創生人材は19イベントで1人あたり平均1.73個でした。
地方創生人材が多く習得している資質は、「バイタリティや精神的・肉体的タフさ」(4.26)と「業務に関する専門知識・ノウハウ」(4.11)であり、統計的な有意差はないものの、BU長よりもスコアが高くなっています。それに対してBU長は、「バイタリティや精神的・肉体的タフさ」(4.19)と「困難な状況で決断する力」(4.15)が高くなっています。イベントの平均値を比較すると、現在のポジションに就くまでに「大きなビジョンを描く力」「困難な状況で決断する力」「マネジメントの原理・原則」「リーダーとしての価値観」「グローバルな視野や考え方」「変革マインド」について習得状況が異なることが分かります。これらの項目に有意差が見られたのは、200名のBU長の平均年齢が異なることによる経験の違いと、11名の地方創生人材がジェネラリストというよりも、特定のスキルに基づく専門性を軸に転職先企業に貢献していることが原因であると予想されます。

図2  BU長になるまでに取得した資質と地方の経営幹部になるまでに取得した資質の比較(習得度)

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*0.05 < p < 0.10,**0.01 < p < 0.05,***p < 0.01

5. 2つのデータが意味すること

今回比較しているBU長と地方創生人材は、サンプルが200名と11名とかなり偏りがあることに留意しつつ、2つのデータの比較結果(図1と図2)を検討してみましょう。図1は、大企業のBUならびに地方の中小企業の幹部として業務を遂行するうえでの重要度で、統計的な有意差が認められたのは、2項目のみでした。繰り返しになりますが、大企業の事業部長も地方中小企業の幹部も求められる資質は変わらない、ということが第1のポイントです。
第2に、図2より現在のポジションに就くまでに経験している仕事の差が統計的な有意差としてあらわれていますが、これは200名と11名とで平均年齢が異なり、経験している業務量の絶対量が異なるためであると予想されます(BU長の平均年齢は54.6歳、地方創生人材の平均年齢は41.6歳)。また、統計的には有意差はみられないものの、地方創生人材の方がスコアが高い項目として、バイタリティや専門性があり、地方への転職にこだわりがないのは、自らが知覚している専門性に「腕に覚えがある」人材であるという点です。
図1と図2を組み合わせると興味深いのは、大企業の事業部長相当の仕事も、地方の中小企業の経営幹部の業務も金額や部下の人数の多寡はあるものの、本質的に求められる能力は変わらないという点です。しかも地方の中小企業の経営幹部になることで10歳以上早くに経験できるということです。
私たちは、大企業と地方企業の中小企業では経営規模ゆえに学べる能力もスケールダウンしているのではないか、という通念に囚われがちです。しかし、200名のBU長と11名の地方創生人材のアンケート結果を見る限り、大企業と中小企業で求められる資質は本質的には変わらず、しかもそれを大企業と比して10歳以上若くして経験できるというのは、働く人々のキャリアアップの場としては大きな魅力だと言えるでしょう。このことから実務的な示唆として、大企業に勤める人材が地方中小企業を経由して再び別の企業に移動する循環モデルを想定できるかもしれません(もちろん地方中小企業に定着するモデルもあります)。大企業にとって地方の中小企業は、経営幹部として育成する場として極めて良質である一方、中小企業にとっても優秀な人材が定着するか否かは別としても、自社の業務を体系的に整備するきっかけや大企業との人的ネットワークを構築する一助となります。まだまだこうした動きは少ないですが、少子高齢化や介護の問題、働き方改革なども含めると、首都圏の大企業勤めよりも、自身のスキルや視野を広げる機会として地方中小企業の経営幹部を選ぶことが一般的になるかもしれません。

本コラムのBU長に関する概念・データ等の記述は、守島ら(2006)に基づいています。

(参考文献)
伊丹 敬之(2004)「よき経営者の姿」『一橋ビジネスレビュー』Vol.52、 No.2 pp.6-17.
金井 壽宏・古野庸一(2001)「「一皮むける経験」とリーダーシップ開発 知的競争力の源泉としてのミドルの育成」『一橋ビジネスレビュー』 Vol.49、 No.1 pp.48-67.
McCall, M. W. Jr, Lombard, M. M.,and Morrison, A. M. (1988) The Lessons of Experience How Successful Executives Develop On The Job, The Free Press, A Division of Simon & Schuster Inc,
McCall, M. W. Jr, (1998) High Flyers, President and Fellows of Harvard College.(金井宏監訳『ハイ・フライヤー 次世代リーダーの育成法』プレジデント社,2002年).
守島 基博・島貫 智行・西村 孝史・坂爪 洋美(2006)「事業経営者のキャリアと育成――「BU長のキャリア」データベースの分析」一橋大学日本企業研究センター編『日本企業研究のフロンティア 第2号』有斐閣 pp.31-52.
三品 和広(2004)「専門経営者の帝王学」『一橋ビジネスレビュー』 Vol. 52, No.2 pp.64-77.
リクルートワークス研究所(2001)「リーダーを育てる」『Works』Vol.47.

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西村孝史氏

首都大学東京大学院 社会科学研究科 准教授 西村 孝史(にしむら たかし)

株式会社日立製作所にて人事に従事後、大学院に進学。2008年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。商学博士(一橋大学)。徳島大学、東京理科大学を経て2013年より現職。専門は、人的資源管理論、組織行動論。主な研究テーマは、ソーシャル・キャピタル、戦略人材マネジメント、経営人材の育成など。最近では「『職場』機能の再認識と現場人事」(『人事の潮流』所収, 経団連出版編・2015年)、「ミドルマネージャーの戦略的役割」『一橋ビジネスレビュー』(2016年、西岡由美との共著)などがある。また、厚生労働省委託の委員会委員や人事院、総務省の委員の他、企業研修の講師・コーディネーターも多数行っている。

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