図書館を核としたまちづくり(後編)/地域活性機構 リレーコラム
亀和田 俊明
2018/04/27 (金) - 08:00

最近では公営の大規模な図書館だけではなく、閉校となった学校の校舎を利用したものや空き店舗などを活用した民営の新しいタイプの図書館の開設も続いています。それらの図書館はまちづくりや地域活性化を支える役割を担っていますが、今回は地域住民が設計段階から開館に深く関わった公共図書館の最新事例を中心に今後の方向性を考えたいと思います。

閉校された校舎を利用する新しい試みの図書館

4月1日に京都市中京区の高瀬川沿いにある旧立誠小学校跡地に、敷地の四隅に図書室と図書棚3ヵ所を設けた新しい試みの「立誠図書館」が開館しました。2020年春にはホテルや図書館を併設し、自治会活動スペースなどを含む複合施設として完成される予定ですが、工事中も地域の歴史や文化を発信し続けるために、一般社団法人「文まち」の仮設事務所に先行してオープンさせたもので、三つのテーマから約500冊の書籍を所蔵し、カフェも併設しています。

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1993年に閉校した後も自治会行事をはじめ、これまで文化の発信地として地域住民に活用されてきましたが、立誠図書館の「運営方針」では、地域文化発信のための図書館運営に努め、資料の閲覧、相談、行事を通じて利用の拡大を図り、まちづくりに役立つ図書館の実現を目指します、と述べられています。地域住民の利用はもとより場所柄、観光客も多く訪れる地域ですので、「京都歩き」の視点から情報発信拠点になることも期待されます。

さかのぼること2月26日には新潟県三条市で、2014年に閉校された荒沢小学校の図書室が地域住民が集い、休憩できる「サードプレイス」として再活用することを目的に「〇彦cafe(MARUHICO.cafe」に改装されオープンしました。これは、三条市の地域おこし協力隊により改装されたもので、譲り受けた児童書や雑誌、学術書など1千冊以上が揃えられているほか、Wi-Fi環境や黒板、大型モニターも整備されていてビジネス利用にも対応されています。

さて、図書館は「公営」と「民営」に大別されますが、最近では各地で魅力的な図書館が次々に開館しています。「NPO法人知的資源イニシアチブ」が毎年、地域で先進的な活動を行う図書館などを表彰する「Library of the Year」では、2017年には、「瀬戸内市民図書館もみわ広場」「大阪市立図書館」「ウィキペディアタウン」が選出されましたが、2006年~2016年までは下記の表のように毎年4件の表彰で、「公営」3件、「民営」1件の割合で選ばれています。

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同賞は公共図書館、大学図書館、専門図書館、図書館団体、図書館関連企業など全国の知的情報資源に関わる機関を対象に授与する賞で、他図書館にとって参考になる優れた活動や独創的で意欲的に取り組んでいる具体的事例を評価し、広く知らしめることを目的としています。受賞される地域と積極的に関わる活動が表彰される例が多いですが、ここでは市民が計画段階から参画した「太田市美術館・図書館」と「瀬戸内市民図書館もみわ広場」について触れます。

駅前のにぎわい創出へ市民目線の文化・交流拠点

群馬県太田市は、人口約22万人の「スバル」のお膝元でもある北関東随一の工業都市ですが、地方都市のご多分に漏れず、自動車への依存度が高く、郊外にできたショッピングモールなどの影響もあり、中心市街地は開いている店が少なく、閑散としていたといいます。そうした中、文化を通じた駅前のにぎわい創出を図るため、2017年4月に長らく更地だった東武鉄道の太田駅北口前に市民の期待を担った「太田市美術館・図書館」がグランドオープンしました。

市内にある天神山古墳を模した小高い丘のような白い建物は3階建てですが、五つの鉄筋コンクリートの箱が寄り添うように集まり、周囲を緩やかなスロープが取り巻くことによって連続的に結ばれているので、あたかも街歩きするようにフロア移動が可能ですし、屋上には土が入れられ木々や植物が植えられた庭園になっています。3月には、平田晃久氏の設計による同館は、感銘を与えた建築作品の設計者に贈られる「第31回村野藤吾賞」を受賞されました。

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まちに創造性をもたらす知と感性のプラットホームとして、「創造的太田人」を基本理念に多彩な美術作品と広範な知識を提供する図書資料を同時に閲覧できる場を提供した新しい形のライブラリーで、世界60ヵ国以上の12,000冊を超える絵本・児童書と10,000冊のアートブックを揃えているのが特徴です。ベンチや照明などは地元のものづくり集団「エーアイラボオオタ」によるもののほか、地産地消をモットーにしたカフェ・ショップも併設されています。

建設に当たっては、基本設計の過程から市民のヒアリングを行い、専門家を交え公募により約50人の市民が参加して5回のワークショップを開き、多様なディスカッションが交わされ、それらを反映させて完成に至りました。ワークショップの際には市民が理解しやすいように模型が用意され、複数の選択肢を示すことで市民が意見を述べ、方向性を決めたといいます。行政や専門家ばかりでなく、市民も一緒につくりあげた「まちづくり拠点」です。

また、リピーターも多く、1年を待たずに利用者が30万人を超える中、駅前にも人の流れがよみがえっていますが、市内の商店や事務所、個人宅などで各館長がお気に入りの本や思いれの本などを置く、「まちじゅう図書館」も始まっています。現在、41館が参加していますが、参加館を随時募集しているといいますし、「太田市美術館・図書館」を起点に駅前ににぎわいをもたらす多彩なプロジェクトも展開されるといいますので、今後が注目されます。

市民協働により基本計画を策定した図書館

岡山県瀬戸内市は、平成の大合併により3町から1市への移行を経ていく中、2009年に現市長が図書館整備等を選挙公約にかかげて当選したことを契機に新図書館の整備が進展することになります。2010年には全庁的な図書館整備検討プロジェクトチームが発足するほか、市民有志による「ライブラリーの会」が「整備策定にかかる情報公開」「図書館整備プロセスへの市民参加」「館長候補者の公募」等の要望書を市長と市議会に陳情し、大きく進んでいきます。

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2011年の準備室長の採用により「新瀬戸内市立図書館整備基本構想」が策定され、同年からは保育園や幼稚園への移動図書館の巡回サービスが始まるとともに、ワークショップ「としょかん未来ミーティング」が開催され、自由参加で初回が58人、12回で延べ500人の参加を得、市民の声を聞き取って生かした「整備基本計画」へと具体化していきます。その際に名称にも使われる「もみわ広場」の「もちより・みつけ・わけあう広場」の基本理念が生まれました。

2016年6月に開館した同図書館は、20万冊に及ぶ蔵書と子どもたちのためのコーナーや学習スペースも充実していますが、同市出身の糸操り人形師の竹田喜之助氏を顕彰するギャラリーや人形劇が上演できるシアターも備えられているほか、文化と歴史を紹介する郷土資料展示も行う「せとうち発見の道」というスペースが設けられました。お隣にある中央公民館と図書館の共通の芝生広場である「オリーブの庭」は、交流の庭として多くの市民に利用されています。

また、拠点となる同図書館を中心に二つの図書館や保育園、幼稚園、高齢者施設を巡回する移動図書館による市内全域サービスを展開しているほか、市内の9小学校、3中学校の学校図書館とオンラインシステムによりネットワーク化し、蔵書の検索予約をできるようにしたり、毎週、学校図書館への図書搬送を行う連絡便の巡回も開始するなど図書館サービスネットワークの充実が図られています。

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図書館をより多くの市民に活用してもらいたい、図書館を核として地域を盛り上げたいという有志により「もみわフレンズ」という友の会が設立され、1周年記念のイベントが協働で開催されたり、図書館を会場にした行政の各部署による講座やセミナー、関連資料の展示など連携事業も多く行われています。同館は6年に及ぶ着実なプロセスを経て開館しましたが、今後の公共図書館のモデルの一つとして注目され、全国から視察や見学が相次いでいるといいます。

望まれるまちづくり拠点としての図書館

日本の図書館は、1970年以降は資料提供サービスを中心とした図書館づくりが進められてきましたが、1990年以降は地方公共団体の財政難などもあって貸し出し中心の図書館運営が難しくなったことなどもあり、地域課題の解決に取り組む図書館が増えていきました。1994年のユネスコ「公共図書館宣言」で「利用者があらゆる種類の知識と情報をたやすく入手できるようにする地域の情報センターである」と改定されたことも地域をより意識するものとなりました。

前回は、図書館の開館後に地域住民が積極的に地域の活動に利用していく事例を紹介しましたが、今回は開館する前の計画段階から地域住民が参画して多様な希望や意見を述べ、それが反映されていくという、まさに利用する側にある地域住民との「協創」によるものでした。開館後も「友の会」のように利用者が活性化に積極的に関わる例も多く、新たな出会いや交流からつながりをつくり、図書館の利用率が高まるだけでなく、地域に活力が生まれています。

一方で、新しく開館した公共図書館は学生や子育て世代の主婦、シニアを中心としたリピーターも多く、いずれも初期目標を超える利用者数を記録している反面、存在は知られているものの、利用したことのない地域住民も多いという現実があります。そうした従来は公共施設にあまり縁のなかった潜在層、特にビジネスパーソーンの来館を促すためのビジネス支援、就職支援、起業支援などの取り組みは、ますます深化させていく必要があるでしょう。

新時代の公共図書館は、今まで以上に地域に必要不可欠な公共施設、サービスとして活性化に貢献できるようにし、地域住民自らが活動できる場づくりもしなければなりません。図書館の職員だけではなく、住民をはじめ地域の企業や商店会、自治会、NPO法人、ボランティア等の市民活動団体、他機関などと多岐にわたって連携し、図書館がまちづくり拠点として「協働」の中心となって地域の課題解決に取り組んでいくことが望まれています。

資料や情報を収集し提供する図書館機能をベースに生涯学習や子育て支援、市民活動支援などさまざまな複合的な設備や機能が加わり、新しいコミュニティセンターのような形へと変貌を遂げてきている昨今の公共図書館にあっては、地域のさまざまな人に門戸を開き、さまざまな地域の課題を解決できる場となりえる他には類を見ない「デモクラティック」な存在といえるでしょう。

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図書館を核としたまちづくり(前編)

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