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コンパクトなまちづくりで地方再生(後編)/地域活性機構 リレーコラム
亀和田 俊明
2018/09/28 (金) - 08:00

前編ではLRTと一体となるコンパクトなまちづくりを志向する宇都宮市の事例を中心に紹介しましたが、後編ではコンパクトシティの先進事例としても広く知られる富山市、そして「コンパクト・プラス・ネットワーク」と「地方再生コンパクトシティ」の二つのモデル都市に選定されているお隣の金沢市の現状と方向性などから今後の地方都市における「コンパクトシティ」の将来像について考えてみたいと思います。

>>>コンパクトなまちづくりで地方再生(前編)/地域活性機構 リレーコラム

単心型から多心型のコンパクトなまちづくり推進へ

2012年にまとめられたOECD(経済協力開発機構)の報告書「コンパクトシティ政策」では、正しい政策を以てコンパクトシティは環境を守り、地域経済の成長を促し、より良い質の生活を提供するとしています。環境とエネルギー効率性の改善、経済成長への寄与、市民社会形成への寄与の3点をコンパクト化のメリットとして挙げているほか、最大の価値は、経済成長、環境の持続可能性、社会公正といった都市政策の目標を包含する能力にあると指摘しています。

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資料:OECDの資料より筆者作成

コンパクトシティは都市機能を中心部に集約し、徒歩や公共交通での移動がしやすい都市形態です。医療・福祉施設や商業・業務施設、教育・行政機関など生活に不可欠な施設に近接して居住することができれば住民の利便性は高まります。特に高齢化社会においては自動車を保有しなくても暮らしやすさは改善されますし、同時に居住区域を集約できれば道路や上下水道等インフラの利用効率も高まり、行政側にも負担減につながります。

都市をコンパクトにする際には、既存の都市構造が前提となるので、例えば、単一の拠点に同心円状に居住区を立地させるという「単心型コンパクトシティ」のモデルも存在すれば、いくつかの拠点に都市機能をまとめ、公共交通機関でつなぐ「多心型コンパクトシティ」のモデルもあります。現在は青森市が「単心型」から「多心型」へとまちづくりの基本構想を転換したことや富山市の評価などもあり、地方都市においては「多心型」が趨勢といえます。

2015年3月に開業した北陸新幹線の利用者数が8月に3000万人を突破しましたが、富山市と金沢市のまちづくりについて見ていきます。富山市は先の大戦で空襲に遭い、市街地はほぼ壊滅して一から復興した街ですが、LRT等公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりの先進地となりました。金沢市は空襲に遭うこともなく、武家屋敷や町家なども残る歴史都市で、訪日外国人観光客を地方へ誘客するモデルケースとして「観光立国ショーケース」に選定されました。

富山市の「お団子と串」によるコンパクトなまちづくり

2012年のOECD(経済協力開発機構)「コンパクトシティ政策報告書」の中で、世界の先進5都市(メルボルン、バンクーバー、パリ、ポートランド、富山)の一つとして取り上げられるなど海外からの評価も高い富山市ですが、2008年に都市計画マスタープランにおいてコンパクトシティ政策が示されました。同市は現在、人口約42万人の中核都市であるものの、2010年をピークに人口は減少しており、都市部と中山間地域で人口減の一方、中間に位置する郊外部では人口増というドーナツ化現象が生じ、コンパクトなまちづくりが進められています。

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資料:富山市「都市整備事業」の概要より筆者作成

市街地の人口密度が47都道府県の県庁所在地で最も低いものであるほか、過去20年間でJR利用者は約29%、市内電車は43%、路線バスは約70%減少し、自動車保有台数も富山県が全国2位という実態からも過度な自動車依存による公共交通の衰退、中心市街地の魅力喪失という大きな課題があります。さらに、今後の人口減少と超高齢者社会による社会保障費の増大など問題は深刻化すると捉えられており、コンパクトなまちづくりを実現するための三本柱として公共交通の活性化、地域拠点の活性化、公共交通沿線地区への居住推進が掲げられています。

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資料:富山市「都市整備事業」概要より筆者作成

そうした状況を踏まえ、同市では「鉄軌道をはじめとする公共交通を活性化させ、その沿線に居住、商業、業務、文化等の都市の諸機能を集積させることによる公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」として串で結ばれた徒歩圏を「お団子」に、一定水準以上のサービスレベルの公共交通を「串」に見立てた「お団子と串」の都市構造が目指されました。必要な公共交通は行政が支援を行って活性化し、駅やバス停の徒歩圏に居住を推進するとともに、生活に必要な都市機能の集積が図られました。

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資料:富山市「都市整備事業」の概要より

利用者の減少が続いていたJR富山港線に公設民営の考え方を導入し、コンパクトなまちづくりのために日本初の本格的なLRTシステムに蘇らせ、2006年に開業したのが富山ライトレールです。車両の低床化と電停のバリアフリー化、フィーダーバスの運行なども整備され、開業前と比較して利用者数が平日で約2.1倍、休日で約3.3倍へと大幅に増加しました。さらに中心市街地活性化と都心地区の回遊性の強化のため市内電車の軌道を新設し環状運行しているほか、2020年3月には富山駅を挟んでの路面電車の南北接続も予定されています。

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中心部にある隈研吾氏設計のガラス美術館&図書館の複合施設前を走るLRT(富山市)

まちなか(都心地区)に住宅や宅地を供給する事業者や住宅を新築・購入する市民に対しての「まちなか居住推進事業」と「公共交通沿線居住推進事業」という補助金制度も生まれ、マンションの建設も相次ぎ、人口も徐々に増えていることから、2018年1月時点での公示地価も全用途平均で4年連続で上昇しています。前述の政策などが功を奏したのか、居住推進地区の人口も事業が始まった2005年の11万7,560人から2017年には15万5,092人へと大きく増加しています。

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資料:富山市の資料より筆者作成

今後も都市整備事業は継続されますが、鉄軌道をはじめとした公共交通を軸にした施策により、富山市ではコンパクトなまちづくりが着実に進んでいるといえます。都心地区には、大型商業施設や複合施設(ガラス美術館&図書館)、マンションの建設などによる人口増の波及効果を見越して富山市まちなか総合ケアセンターも2017年に開設されていますが、一方で昔からある二つの商店街には、にぎわいが戻ったとまではいえないのも事実です。まちなか居住を推進する上でも市外への消費流失の抑制とともに、さらなるにぎわい創出が期待されます。

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地域包括ケアの拠点施設となる富山市まちなか総合ケアセンター

金沢市の「古いものと新しいものが調和する美しいまちづくり」

「コンパクト・プラス・ネットワーク」と「地方再生のコンパクトシティ」のモデル都市に選ばれている金沢市は人口46.5万人の北陸最大の都市ですが、戦後の人口増加とモータリゼーションの進展を背景として他の地方都市と同様に市街地の範囲は郊外部へ拡大するとともに、金沢大学をはじめ石川県庁などの郊外移転により人口がスポンジ状に減少し、まちなかの活力やにぎわいの低下を招いていました。そのため人口規模の見直しや市街地の拡大抑制、中心部の都市再生事業など2009年の新都市計画マスタープランでは従来の方針を大幅に転換しました。

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資料:金沢市「集約都市形成計画」概要版より筆者作成

そうした流れのなかで今回、モデル都市に選定された同市では、交流人口の拡大を図りながら市民生活と来訪者の調和を目指す「古いものと新しいものが調和する美しいまちづくり」を標榜しています。持続的に成長する成熟都市の実現に向けた「軸線強化型都市構造」という将来都市像を定め、上記の5つの基本方針に基づく都市構造の変革と67%と高い依存度の自動車の移動を主体とした生活スタイルから徒歩や自転車、公共交通など多様な移動手段を目的に応じて選択できるタウンライフへの転換を図るという「集約都市形成計画」が考えられました。

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資料:金沢市の資料を基に筆者作成

まちなかを「核」として、居住や商業・業務等の都市機能を集積するとともに、公共交通が便利な場所を「軸」として、その沿線に住む場所や各種施設を中長期的に緩やかに誘導し、まちの活力を強化していくための都市の姿である「軸線強化型都市構造」ですが、居住誘導区域(公共交通が便利な場所など)、一般居住区域(郊外の市街地)、そして、都市機能誘導区域(まちなかなど)や日常生活圏において既存の商店街などの地域生活を支える生活拠点の誘導区域が下図のように設定されています。

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資料:「金沢市集約都市形成計画」概要版より

コンパクトシティ化を進める上でも重要な柱が交通戦略ですが、同市では2015年に策定された「第2次金沢交通戦略」において、新たな考え方として「まちなかを核にネットワークでつなぐまちづくり」、継続する考え方としては、「歩行者と公共交通優先のまちづくり」が掲げられています。郊外とまちなかを結ぶ主要な路線は「公共交通重要路線」として、誰もが使いやすい交通環境や過度に車に依存しない交通体系を目指しており、駐車場の確保や整備が推進されているパーク・アンド・ライドは、目標台数が2600台に設定されています。

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資料:「第2次金沢交通戦略」概要版より

また、人口減少とともに空き地や空き家の増加による空洞化が心配されるなか、まちなか住まいを応援する数々の住宅支援制度や「かなざわ空き家活用バンク」も設けられています。一方、まちなか区域の住宅棟数の約30%を占める金沢らしい町家の保全活用を図ることにより町家の消失割合を約10%抑制するため居住希望者を対象とする町家の売買等の総合窓口として機能する金澤町家情報館や「金澤町家情報バンク」によるマッチング、さらに金澤町家再生活用事業により居住区域の一部であるまちなかでの空き町家の修繕について補助が実施されています。

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昭和25年以前に建設の町家の保全活用を図る総合情報発信拠点の金澤町家情報館(金沢市)

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資料:金沢市の資料を基に筆者作成

町家をはじめ茶屋街、兼六園など歴史と文化が薫る街として街並みも守られてきた金沢市は全国に先駆け「伝統環境保存条例」(1989年に都市景観条例に移行)を施行しましたが、最近では訪日外国人客の増加もあり、ホテルの建設ラッシュを迎え、古いものと新しいものの調和が今まで以上に求められてもいます。市長を5期20年にわたって務めた山出保氏は、「景観は文化であり、条例は金沢の景観を守る志だ」と語っています。今年暮れにも始まる鼓門や文化財など夜に文化的景観を楽しむ「夜間景観アクションプログラム」実施の動きも期待されます。

丁寧な説明と時間をかけた緩やかな居住誘導

2回にわたって県庁所在地であり中核市の宇都宮市、富山市、金沢市の3都市を訪ね、実際に街を歩くとともに都市政策や都市計画、交通政策、住宅政策など各自治体の担当者の方からコンパクトシティの現状をはじめ方向性などについてのお話を聞きました。いずれの都市も周辺部のいくつかの拠点に都市機能をまとめ、公共交通機関でつなぐ「多心型コンパクトシティ」となっており、施策を講じながら実行に伴い着実に歩を進めています。

しかし、コンパクトシティ政策のなかで重要な施策としてうたわれる中心市街地の活性化やにぎわい創出という面では、残念ながらまだ道半ばではと実感します。特に地方都市に古くからある商店街が廃業や移転等により空き店舗と化してしまう現状、再生はコンパクトシティとは別な形で捉え、考える必要があるのかもしれません。例えば商店を営んできた地権者とは別な経営者を呼び込んで有効利用し、開業や起業が可能となる法制度や税制の整備も望まれます。

各都市とも郊外に住む住民がまちなかに新たに建設されるマンションや点在する空き家へ移転する際の補助制度などによる誘導も徐々に数字となって表れてきています。現在、コンパクトシティに取り組む地方都市は、いずれも「まちなか居住」の推進を掲げていますが、富山市のような市民がまちなか居住か郊外居住かを選択できるような施策は、長年住んだ土地への想いやコミュニティのつながりなどから考えても意味ある選択肢といえるのではないでしょうか。

人口減少とともに街の拡散が止まらない多くの地方都市では財政負担も増して厳しい状況にあるなか、コンパクトなまちづくりが考えられ、推進されていますが、今回取り上げた3都市の事例の中にもヒントなる考え方や施策が多々あるのではないでしょうか。人口減少化のスピードも速まるものの、短期間で費用をかけて成果を出すのではなく、緩やかに丁寧に住民と向き合ったコンパクトなまちづくりが求められているのではないでしょうか。

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