関係人口時代の「誘致コスト」と「誘致すべき人材」
木下 斉
2020/01/10 (金) - 08:00

第二期地方創生政策で活発に議論されているのが「関係人口」というテーマです。

従来の移住定住政策の難しさも反映しつつ、新たな都市人口と地方との接点を数値化しようとする動きが反映されて出てきた、新たな用語です。とはいえ、定義もまだ非常に曖昧としており、従来の人口論で語られるようなものとは異なります。一方で関係人口という非常にファジーな言葉を目標に掲げてしまうことで、全自治体がこれらの誘致合戦を展開しようとしている動きも見られるため、ここで改めて「誘致コスト」について考えたいと思います。

地方が苦しんできた、コスト倒れの誘致

地方は今まで何かにつけて、「誘致」を行ってきました。伝統的には工場誘致、大型商業施設誘致、昨今は観光客誘致から移住定住促進といった具合に、地元にないものを外から誘致することによって活性化を目指すというアプローチは長らく様々な分野でとられてきました。

その中で雇用を数十人確保しました、というのは良いこととしても、その雇用によって生まれる所得がいくらで、その総額で可能な課税金額がいくらであるのか、といった出口までを細かく整理されたものはほとんど見かけません。さらに言えば、誘致のために補助が必要となるオフィスの整備費や家賃といったコストは見えているものの、収入面は人数でしか把握できていないものが多数あります。さらに工場となれば、施設自体のみならず周辺の道路や上下水道などのインフラまで作るのに対し、生産設備などから得られる固定資産税収入など、自治体の税収につながる収支についてのイメージもなかったりするわけです。

さらに、工場や商業施設をみれば撤退してしまうということも少なく有りません。膨大な税金で誘致をしたものの、経営が傾いたら工場の生産縮小、もしくは撤退ということになり、地元には負の遺産だけが残るということになります。今度はその「余ったもの」を活用するために税金を投入しなくてはならない…そんな状況も各地で見られます。誘致をした結果、企業は撤退し、施設だけが残ってその負担は地元が負うことになってしまうという、本末転倒な事業も見られるわけです。しかしながら、人口減少やグローバルでの製造業の競争、ネット含めた商業競争環境といった現状を鑑みれば、中長期での撤退リスクも加味することは当たり前で、それらを含めて、「投資対効果」があるのかどうかを検討することが求められています。単に誘致をすればいいというものではないわけです。しかし、これらリスクも加味した損益を前提とし、お金で入と出を双方比較して、プラスを作り出すという地域全体の経営判断を行わないと、結果としては誘致によって後に地域が衰退することも出てくるのです。

近年の観光分野でいえば、オーバーツーリズムは日常生活を破壊するほどに地元コストが高くなっている割に、そのコストを上回るだけの適正な負担を観光客、並びに観光産業企業が負えていないという状況が浮き彫りとなり、問題となっています。安売りをして数を追った観光客誘致が地域を疲弊させる典型的なパターンです。

移住定住でも同様で、2つの理由から所得との関係を意識すべきです。1つは、移住定住した上で地元で仕事に従事してもらった場合、それが一定の所得ではなく所得税、住民税の納税を通して地域財政に助けになるかを考えることが重要で、単に人口減少を抑えるためだけに行うべきではありません。もう1つは、移住定住者に生産性が低く給与の安い仕事を強いたり、はたまた過酷な環境での起業を求めるようなやり方では、本末転倒だということ。実際、自分たちの子どもには担ってほしくないと考え、そういった理由から進学や就職のタイミングで地元の外に出したという地元の方も少なくありません。そのような仕事や役割を、他の地域から連れてきた若者に担わせるということ自体に大いなる問題があるのです。

関係人口でも注意すべき

そのような課題を踏まえ、「関係人口」でも同様に、誘致コストを無視するような施策は注意が必要です。地元の関係人口の会員制度などを作り加盟者向けに様々なサービスを税金で行うようなモデルは、前述の損益計算の範囲で行われなくてはいけません。都市部からきた税金を、結局のところ都市部の人たち向けのサービス財源として還流させるだけになってしまっては、地方活性化にならないどころか、単に金で友達を買うような行為となるのです。

まず、関係人口というものには2つの軸が必要となります。

1つは、地元に住んだり訪れたりするだけではない「新たな消費」に貢献してくれるということです。お金を払って関係人口を確保するのはナンセンスですが、ネットなども普及した昨今、地元を訪れたりせずとも地元の商品やサービスを購入することは可能です。地元を理解したり、好きになってくれて、その上で都市部に住みながら地方消費を行うという人を確保することには大きな意義があるでしょう。つまりはお金を払って関係人口を確保するのではなく、都市部住民にお金を払ってもらって関係人口を確保するというのが重要という、当たり前の話です。

もう1つは、地元に不足する「付加価値の高い労働力」となってくれるという視点です。東京などは本社機能で年間約30兆円の域外収支がありますが、企画業務やクリエイティブ業務に関係する人材は都市部に集中しています。地方に必要なのは、生産性が低く、給与の安い業務の引き受け手ではなく、新たな付加価値を生み出し、安い商品を高く売るための営業企画を組み立て実行できる人材なわけです。関係人口とは、このような“地方に移住定住することがなかなか困難な人材”を活用することによって経済を回していく人であるべきです。特に上場企業の副業解禁などの流れもあり、パラレルワークスタイルで成果を上げている事例も各地で見られるようになってきています。

漠然とした中で関係人口を募集するのではなく、「消費力」、「労働力」という2軸をもとに地域に必要な関係人口をターゲティングし、そのような方々と意味のあるリレーションシップ(関係)を適切に築いていくことが重要です。今伸びている地域はまさにこれを適切に行っています。遠隔でも魅力的な商品サービスを作って消費を呼び込み、さらにそれに関わりたいと思う関係者を増やしていくことによってプロジェクトのパワーを創り出すことができているのです。闇雲に行うのではなく、これら2軸に貢献してくれる人材との信頼関係を着実に構築しているのです。

くれぐれも「関係人口100人確保」といった適当な目標を掲げ、国の予算ありきのもとで“地元ファンクラブ”のようなものを立ち上げる地域が出ないことを、切に願います。

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